ずどこんちょ

21ブリッジのずどこんちょのレビュー・感想・評価

21ブリッジ(2019年製作の映画)
3.6
あぁ、この夜のマンハッタンから溢れ出るゴッサムシティ感。ゾクゾクします。

ストーリーはよくあるストーリーです。
前半は麻薬の強奪現場に遭遇した警官8名が殺害されるという凶悪事件が発生、その容疑者二人を追っているうちに、次第に不可解な現場の裏に隠されていた警察組織の汚職事件が明るみになっていくのです。
凶悪犯罪者たちを追っている警察が、実は麻薬絡みの汚職で真っ黒で、真実に触れてしまった彼らは警察から抹消されようとしていたという展開です。

主人公の正義感溢れるアンドレ刑事を演じたのが、『ブラックパンサー』でお馴染みのチャドウィック・ボーズマン。
この時点でとっくに大腸がんが進行しており、手術や治療を受けている合間にこの撮影が行われていたようです。最期まで役者として魂を燃やしていた彼の活躍が眩しく輝いていました。カッコよかったです。
アンドレは幼い頃に警察官だった父親を殉職で失っており、その頃から強い正義感を持って必然的に自身も警察官になるのですが、採用から10年の間に何人もの犯人たちを狙撃しており、内務調査を受けている疑惑の刑事なのです。
果たして彼の正義は正当なものなのか、それとも犯罪者への復讐に駆られたただの暴走刑事なのか。
アンドレ自身が疑いの目で見られています。

そんな中、警察官殺しの凶悪事件が発生。
事件に向き合うアンドレの姿を見ることで、彼が正義の刑事なのか暴走刑事なのかが誰の目にも明らかになっていくのです。
犯人の二人組に怒りを燃やしているのはアンドレも同じです。しかし、アンドレはあくまでも真相を追求しようとしています。
二人組に繋がる協力者から情報を引き出そうとし、この事件の動機や背後の謎に迫るために生きた彼らの口から言葉をもらおうとしています。
しかしそんな中、犯人の協力者や犯人たちは何の抵抗も示していない中で警察官に狙撃されてしまうのです。
アンドレでさえ真相を聞き出すために発砲を躊躇っていたのに、まるで怒りに捉われているかのように平然と発砲する不自然な警察官たち。
アンドレはこの事件の背後に警察の威信に関わる何か強大な権力が動いていることを察知するのです。
そして、犯人の一人マイケルからUSBを託されたアンドレは、今回の事件が警察による汚職の隠蔽工作だったことを知るのです。

なんと言っても、マンハッタンを舞台に警察の全勢力を挙げた捜査網が張られるという壮大なスケール感が見応えあります。
橋や街が封鎖され、街中でカーアクションと銃撃戦が繰り広げられます。
色々と日本とは規模が違い過ぎて圧倒されます。例えば捜査が始まって、犯人たちはまだこの近くで取引しているに違いないからマンハッタンを封鎖しようと、アンドレ刑事が提案してからそれが市長の権限の元で実行に移されるまであっという間。例え深夜限定の出来事だったとしても、マンハッタンのような大都市を封鎖したら大混乱が起こるのは必至です。
もちろん本作はフィクションだからあまりにも都合が良すぎると感じますが、なんとなくアメリカならあれよあれよとやってしまいそうな説得力を感じます。
責任とか煩わしい話は後回しで、犯人確保のために進めていっても、国民が後で納得すれば良いという文化がありそうで。自国を標的にしたテロに対抗した時も徹底的かつ即座に動き出したアメリカならでは正義の火に燃えた闘争心がある気がします。
日本の政治家とはまるで違うイメージ。

しかも、フィクションとしての封鎖の話は別として、実際に夜間のマンハッタンでこれだけ大規模の封鎖シーンの撮影を許可しているのだから驚きです。
本作も含めてグランドセントラル駅で映画の撮影をする作品も何度か見かけますが、日本で置き換えれば新宿駅とか渋谷駅とかで撮影してるようなものですよね。見たことないですよ、日本のドラマや映画でそれほど大規模な撮影。足利の渋谷駅交差点セットがなければ、こんな撮影できません。
ロケ撮影に寛容であることが、アメリカの強みだなぁと感じます。
マンハッタンの封鎖、市内に散らばる無数の警官たち、そして市街地で繰り広げられる犯人たちとの激しい闘いはとても刺激的でした。

すべての黒幕との対峙シーンでも、住宅の中で銃撃戦が繰り広げられます。なるほど、犯人確保とその狙撃に動いていた一同はやはり汚職まみれだったのです。
都会の警察ならではの生活面での苦悩が吐露されるのですが、それが汚職の言い訳にはなりません。やはり正義感あふれるアンドレには許されないことでした。
この銃撃戦でのアンドレのアクションも鮮やかで、部屋の壁を挟んで睨み合っていた時、相手が壁越しに狙撃してくると踏んだアンドレは上半身を屈ませて下から反撃するのです。相手はそうとも知らず、予想通り壁越しに撃ってきます。弾は当たらず、アンドレの反撃が命中するのです。
咄嗟の時にその判断ができるのは、いくつもの死線を潜り抜けてきた証拠です。

冒頭の内務調査で、アンドレは自身のことを戦場の兵士に例えます。
戦場の前線では弾を撃つ勇者は10人中3人で、あとの7人は無意味な充填ばかりしているというエピソードに例え、自身は「真の兵士」だと話すのです。そして、「ここは戦場ではない」と答える調査員に対して、君たちは残りの7人だと言い切るのです。
堂々とした強気なアンドレですが、事件現場の最前線を経験してきたアンドレだからこそ、最前線は犯人との戦場だと実感しているのでしょう。
実際、黒幕との最終局面も自身が撃つか撃たれるかの瀬戸際で、ほんの一瞬判断が遅ければ、もしくは油断をしていれば、きっとアンドレが殺されていました。
彼は決して犯罪者への復讐心に駆られて狙撃しているのではなく、真相を求めて犯人と対峙し、それでも銃を交わさなければならない時に発砲しているのです。

現場の第一線で活躍する刑事による、正義の鉄槌サスペンス。
勧善懲悪なストーリーは爽快で、なおかつ夜のマンハッタンを舞台にするスケール感に圧倒される作品でした。