明石です

犬鳴村の明石ですのレビュー・感想・評価

犬鳴村(2020年製作の映画)
3.2
九州の有名な都市伝説「犬鳴峠」を映像化したホラー作品。オリジナルの犬泣村は、たしか森の奥深くに人知れず存在した朝鮮系の部落で、日本の法律が通用しなくて云々みたいな感じだった覚えがあるのだけど、本作では大胆に改変、というかデフォルメされてる。タイトル通り、直球で犬がモチーフの村になってる。

私の記憶が間違ってなければ、ビデオ版呪怨シリーズの「2」で早くも、教室中を伽耶子で溢れさせ、他のJホラー監督たちと競作したオムニバスホラーでは、アメリカに旅行した日本人観光客が「パツキン」の幽霊に殺される意味不明な作品を惜しげもなく披露していた清水崇監督にはいまさら何も期待していなかったのだけど、低すぎる評価に反して、意外にも観れる映画でした。いわゆる「呪怨の」清水監督の映画にしては抑えが効いてて良い。抑えすぎてところどころクエスチョンマークが残る感じはするけど、これくらいの奥ゆかしさがいい。ただし終盤の15分をのぞいては、、

劇中の「犬泣村」はすでに地図から消されていて、これからダムの底に沈もうとしているという設定。外国人や部落の人々が差別どころか虐殺の対象になることさえあった明治の時代ならともかく、曲がりなりにも人権が保証されている、なんならGoogleアースで上空からすべてが丸裸な2020年において、「地図から消された」、けれども人知れず現存している村、という設定自体、ちょっと無理があるのでは、とは正直思ったけど、まさかまさか、終盤でその疑問が氷解。明治大正から変わってないような前時代的な日本の山村の景色は素晴らしく(実はそれ見たさに手に取った)、感無量とまではいかないにせよ個人的には大満足でした。

序盤の白眉の、犬泣村を訪れた女の子が、電話をかけながら逆さまに落ちてくる恐怖シーンは、韓国映画『4人の食卓』からの流用だし、主要人物の子供にまつわる設定は明らかに『オーメン』のパクリ。色々と工夫不足が目立つなあと思い観ていた中、最大の難所は、やはり中盤以降の、霊現象にまつわるシーンでした。

中盤以降は、オリジナルの都市伝説ほぼ丸無視で、良く悪くも清水崇節全開のシーンのオンパレード。都市伝説って、明らかになってる部分よりも謎の方が多いから都市伝説たりえるのであって、誰にでも見える幽霊が大量に出てきたらそれはもう都市伝説じゃなくないか、というそもそも論はさておいて、物語が大詰めを迎えたあたりから、『ラスト·オブ·アス』の中ボスみたいなクリーチャーが普通に出てきて驚く。カクカクしながら攻撃してくる俊敏性がヤヴァい。いつか読んだ、ホラー作家の岩井志麻子氏の本に「あってしかるべき怪異がないのも怪異のひとつ」と書かれていたのを思い出す。ラスト付近の、村に迷い込んで帰ってこれなくなり、湖に浮かんだ主要人物の遺体に、犬泣村の人間の体が複数くっついてるシーンは、もはやお笑いでした。「誠に申し上げづらいのですが、お兄様は実に不可解な姿で発見されまして、、」不可解でなく不自然じゃないのですかそれはと思ってしまう。

この映画を終盤まで見た人のほとんどが、ラストにどんでん返し的なのものがあるのを予想していたと思うのだけど、その予想を遥かに上回る(下回る)安直などんでん返しが用意されてて驚いた。「物語とは良く語られた嘘」だと、大昔の気の利いた人が言っていた。そういう気の利いたことを言うのは大抵フランス人かギリシャ人かジョンレノンだというのはさておき、映画において、どんでん返しほど危険な仕掛けはちょっとほかにないと思う。下手にやると「物語」として成立しかけていたシナリオを完膚なきまでに無に帰してしまう。物語というのが「良く作られた嘘」だとしたら、「悪く作られた嘘」はそもそも物語ですらないわけで、それをストーリーに持ち込んだ時点で、映画は破綻してしまう。本作にかかわった大勢のスタッフの中には、純粋にホラーが好きな人はそれこそ大勢いただろうに。どんでん返しがいかに危険か、その辺りのことを誰も指摘しなかったのだとしたら、清水崇氏はもはや裸の王様、というか全裸監督ですね。

このエンディングを見せられたあとでは、すべてがチープに見えてしまう、、謎にクオリティの高いエンドロールの空撮も、宇多田ヒカル風のしんみりしたエンディング曲までもが安く見える不思議。ハリウッドのホラーでは、ほぼ毎年のように新陳代謝が行われていて、次なる若い映画作家にチャンスが与えられ続けているのに、Jホラーはいまだ、この清水崇監督をトップに居座らせ続けている。「呪怨の」と冠詞をかぶせれば一定数の来場者を見込めるという魂胆なのだろうけど、本当にこのままでいいのか、とは思う。子供の頃に『リング』や『着信アリ』に魅せられホラー映画にのめり込んだ(そして呪怨シリーズをとりたてて好きになったことは一度もない)私としては、清水監督がいまだJホラー界で大権を握ってる理由を、商業的な事情以外に何ひとつ思い浮かべられない。

最後にいいところを。個人的に大好きな俳優さん、高嶋政信氏が本作でもキレッキレでした。一見すると優男のように見えなくないルックスなのに、溢れ出る邪悪さを隠しきれない理想的なヒール俳優感。この人が出てくるだけでご飯三杯食べれるワシ、、かの香川照之氏はあんな引っ張りだこなのに、なぜこちらの日本屈指のサイコパス俳優にはホラージャンルの出演があまり回ってこないのか。ドラマが主戦場だからなのかな。本気で、もっとホラー映画で見たい俳優さんです。
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