Kitty

犬鳴村のKittyのネタバレレビュー・内容・結末

犬鳴村(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

Jホラー黄金期の作品には劣るものの、ここ最近の国産ホラーの中ではトップクラスに出来がいいと思う。
やっぱりホラーにおいて、脚本とか構成がかなり大事だと改めて実感。冒頭から「どこまで現実に近い世界観なのか」の設定の仕方が巧みで、観客に「現実に限りなく近い世界観」と伝えることに特化した直接的な表現を用いない恐怖描写には舌を巻いた。
ストーリーとしても、業であったり、それによって生じる理不尽さであったり、清水崇作品ではわりと描かれてきた題材のなかに今回は血縁や差別が加わり、本人には関係ないはずなのに逃れられない理不尽さに拍車がかかっていた。
冒頭以降も恐怖描写の強弱やタイミングなど、しっかりと管理の行き届いた前半戦は見事だった。
特に、小中理論のベースの1つでもある心霊写真のような、ハッキリと現れないが明らかにこの世のものでないと確信できる霊の描きかたや、あえて人物を画面の中心から外すことであったり生理的な不安感を掻き立てる演出や構図も上手い。あと、清水崇作品の特徴のひとつでもある、幻覚か現実か過去か現在か分からない描写も不安を煽る。今回は過去作に比べるとかなり論理的だったので見やすかった。
心霊の実体は、基本的には「残穢」のように輪郭をボカすタイプで、伽椰子や俊雄くんのようなパワーで押すには無理があったように思う。トンネルで兄弟が拉致されたあと、どんどん出演回数が増えていくボンヤリ幽霊たち。動きや移動方法に人間味がありすぎて冷めかける場面が多々あり、何ヵ所かコメディに片足突っ込んだ部分があったように思うが、それも新たな表現を果敢に模索する清水作品ならでは。描きかたが多彩で飽きずに観られるのはさすが清水崇監督といったところか。

問題は、犬鳴村の真相が解明されていく後半。
物語を畳みにかかって解説パートが増えたことで恐怖描写のキレが落ち、緊張と緩和のバランスも悪くなったのが勿体ない。この頃になると恐怖描写もインフレしているように感じた。やはり、小中理論は長編に向かないというのは本当なのだろう。
母方の実家を訪れたときに墓の傍らに立ってた男が、霊かと思ってたら普通に触れたところからかなり雲行きが怪しくなる。
犬関連の話が出てから、それまで心霊ホラー映画だったのにどんどん情念が絡んだ怪談映画に色が変わっていき、最終的には怪談映画として落ち着いてしまったため、その微かなジャンルの変化も冷めてしまった要因。あまりにも、物語に因果関係を作りすぎる(人間の理屈を死者に適用しすぎる)と怪談っぽくなるのかと。
犬化した人間は、ちょっと観客が求めてたものと違うと思う…
結末に関しては、業と理不尽を描く清水崇監督だからこそのものだなぁと納得のものではあった。

前半に関しては大満足だったが、後半の失速が勿体ない。しかし、まだこんなにもJホラーに可能性があると感じさせるには十分だった。おすすめです。
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