イホウジン

火口のふたりのイホウジンのレビュー・感想・評価

火口のふたり(2019年製作の映画)
3.3
キャストの若さ割にセリフが老けてる

単純にセリフが気持ち悪い。全てがそうなわけではないが、やたらと説明的で啓蒙的な場面があった。「身体の言い分」とかアダルトビデオでも聴かないような安っぽいセリフを連発するし、エヴァンゲリオン並のセカイ系じみたセリフもかなり多い。確かにこの映画で描かれることもまた社会の真理の一つだとは思うが、それらを表現する方法があまりにもあざとすぎる。
それにいちいち言動が古臭い。2人が60代ぐらいならまだ分かるが、30代と思われる2人にしては悟りの境地に行き着きすぎてるように思う。その違和感を楽しむ映画も世の中にはあるがどうも今作にはそのような意図はなさそうなので、本当にこの2人のキャラクターとして描いていたのだろう。釣りしたり同窓会ムードになったり、やってることが完全に老人のそれである。せっかく若い実力派俳優を揃えたのに(2人とも2年連続でキネ旬の男優賞女優賞を取ってるのは本当にすごいことだ)、それを無に帰すような演出やセリフの連続だった。
終盤の展開もどうにも腑に落ちない。せっかく社会のリアリズムを事実を用いつつ描いてきたのにここで急に虚構感が増す。出来事それ自体が悪いとは思わないが、全体との調和を考えるとやたらと話が肥大しているように思える。そしてその終わらせ方も気持ち悪いくらいにあざとい。急に陳腐なアダルトビデオを見せられている感覚になってしまった。

でも全否定する気はない。観客の視覚的な欲望を満たすための性描写とは一線を画す、独特な生活臭の漂う感じはとても良かった。食/睡眠/性の三大欲求を徹底的に追求したストーリーは、震災後の日本が“本来望んだ”景色のようである。

今作は19年度のキネ旬ベスト1に選ばれたが、個人的には少々疑問に思う。
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