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AI崩壊のkatomのレビュー・感想・評価

AI崩壊(2020年製作の映画)
4.5
本作は、「親は子供を幸せにできるかどうか」という人類普遍、いや、宇宙普遍的な問題提起をコンセプトに統一されている。なんやかんやで幸福論的な話にも思えてくる。

また、AIの暴走や命の選別というモチーフを匠に使いつつ、本質的には「親は子供の自立を遠くから見届けることしかできない」事を見事な形で表現している作品だ。

①桐生と娘のこころ
②人間とAI

それぞれに対する作者の考察が絡み合いながら物語は展開していく。

①桐生とこころ
冒頭、回想シーン、ラスト。要所に必ず登場するのが桐生家族の描写だ。
桐生はサーバー室に閉じ込められたこころを救いたいが、警察に追われ、サーバー室に近づくことができない。こころを救うために千葉から離れ仙台まではるばる茨の道を歩み、遠隔的に必死の援助をする。
それでも最後、こころの命を救ったのはこころ自身だ。桐生は、意識薄らぐこころに、ガラスの厚い壁越しに必死に試練の打破策を伝える。それを受け取るかはこころ次第。結果的には、こころは桐生からのメッセージを受け取り自ら困難を打破した。
この描写の桐生はまるで、子の自立を遠くから見届ける親のようだ。

また、娘の命を救いたいという桐生の想い、人々の命を救いたいという妻のぞみの想い。そうした想いがこころを死から救った。人が人を想い行動することはAIにはできない、人間唯一の強み。愛は世界を救う、正にその通りだ。
だけど現実世界では、願ったからって、行動したからって必ずしも運命を変えられるわけじゃない。それでも主人公にハッピーな結末をプレゼントしたのは、作者自身の人類への淡い期待と希望なんだろう。

②人間とAI
ラストカットからも読み取れるように、「のぞみ」は未来を決定する力を持ちながら、プログラム当時の過去の記憶も持ち合わせている。過去・現在・ 未来包括する4次元以上の存在だ。
人類はその生みの親であり、AIは子だ。人類は、自分たちより高次元の子に対し、" のぞみ " を抱くことしか出来ないのかもしれない。
ここで①で述べた、"親は子の自立を遠くから見届けることしか出来ない" 的な要素がリンクする。



もしもこの世界に幸せを司る神様がいるのだとしたら、その神様はとっても気まぐれなんだろう。

あと、ラストの桜庭の台詞、「人間はもうすぐ地球の主人公の座から降りるんです。AIの暴走が収まったかどうかなんてもう人間にはわからないんです。進化は、日々刻々と進んでいるのですから」は、作者の本心ではなかろうか。
第一、人間は地球の主人公なんだろうか。
そんな事を考えさせられる。
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