ぴんじょん

ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえのぴんじょんのレビュー・感想・評価

5.0
芸術は個人を解放するから危険視される。
ドキュメンタリー映画です。

ここのレビューアーさんがた、なんだか、エンタメを期待しているようですが、それを期待しちゃいけませんよ。

メインに語られるのは、ヒトラーによる芸術統制の愚かさ。

芸術の本質がプロパガンダ(もしくはアジテーション)にあるのか、人間性の解放にあるのか、むろん両面をそなえているのでしょうけれども、ヒトラーがその両面を理解し、前者のみを利用しようとしたということがよくわかります。

そして、後者の面では、芸術は独裁者にとって危険なものだったのでしょう。

2019年に起こった、川崎の小学生襲撃事件に関して、爆笑問題の田中氏が、「人間性の喪失という危険性は誰しも持っている、しかし、人間性の復活に芸術は大きな力を持っている」と論していましたが、それはまさに、このことを表しているのではないでしょうか。

人が人として生きることを謳歌しだしたら、絶望によって人々を支配しようとする独裁者は退場を余儀なくされるでしょうから。

だからこそ、ヒトラーは、世界中の芸術を略奪し、自分の好みで、前衛芸術を破壊していったのでしょう。

しかしながら、展開は多岐にわたり、一言では表しきれません。

芸術の問題とは直接関わらないのですが、多くのユダヤ人がナチスを甘く見ていたことも、この映画で思い知らされます。

財力があればナチスも大目に見てくれるのではないかという、富豪ユダヤ人の考えは見事に裏切られていきます。

今日本で起こっている右傾化も、いくら現政権が反動的だといっても、かつてのファシズムの様なことにはならないだろう、などという甘い観測は捨てた方がいいのではないでしょうか。
少しぐらい憲法に手を入れたからって、極端に日本は変わらないだろうと思っていると痛い目を見るのではないでしょうか。

確かに、1日、2日では変わらないかもしれません。
しかし、20年後、こんなはずではなかったと言わずにすむでしょうか。

2019年の愛知トリエンナーレ事件は、まさに、この映画とぴったり符合します。

そうそう、ヒトラーが退廃芸術展と銘打って現代美術を批判する意味で開いた展覧会が、かえって好評だったという皮肉な展開は、愛知トリエンナーレでも、「表現の不自由展 その後」がネトウの攻撃にさらされたことでかえって評判になり、予想以上の来場者を得たこととも似ていました。

ただ、タイトルの「ヒトラーVSピカソ」というのは言い過ぎの感はあります。
彼らが直接対決したわけではないのですから。

けれども、映画の終盤に出てくる、ピカソの「ゲルニカ」のエピソードは面白いものです。
ナチスの親衛隊が、「ゲルニカ」を見て、「これはあなたの作品ですか。」と問います。
それに対してピカソは答えます。
「君たちのやったことだ。」と。
2019/12/31 10:18

270-1
ぴんじょん

ぴんじょん