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シークレット・ヴォイスの708のネタバレレビュー・内容・結末

シークレット・ヴォイス(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

スペインの「マジカル・ガール」は「魔法少女ユキコ」という架空の日本のアニメが登場して、そのテーマ曲で長山洋子のデビュー曲が流れ、まったくの救いのないドス黒い悲劇的な内容で、とてつもなく強烈な作品でしたが、そのカルロス・ベルムト監督がその次に公開したのがこの作品。え?!こんなの公開されてたなんて知らなかった。ノーマークでした。新作「マンティコア 怪物」の公開が控えているので観ました。

いやぁ、この作品も地味ながら強烈でした。後味悪いです。いい意味で。

記憶喪失で歌うことができず、引退状態の国民的歌手のリラ・カッセン。リラの大ファンでカラオケバーでリラの歌を完コピで歌いこなしてるシングルマザーのヴィオレッタ。リラのマネージャーのブランカがヴィオレッタの存在を知り、リラに歌を教えて再起の手伝いをして欲しいと極秘依頼する仰天の流れ。

で、そこにリラはリラで、ヴィオレッタはヴィオレッタで母と娘の確執が絡んできます。

実はリラは、歌手を目指していた母リリがつくった曲を歌ってブレイク。その上、ヘロイン中毒の母を死なせたという秘密を罪悪感として生きています。そのことをヴィオレッタに告白。

ヴィオレッタは娘の出産によって歌手の夢が絶たれたものの、23歳になったその娘は自分の思い通りにならないと、すぐに自分の喉に刃物を突き立てて「死んでやる」とヴィオレッタを脅し、リラのサイン入りのレコードを叩き割るくらい暴力的。ある日、ヴィオレッタの限界が突破してしまい、リラの代役を務め上げるために娘を殺します。

ブランカがリラのために折った船の折り紙をヴィオレッタが鶴に折り変えたのは、同じ折り紙を別な形に変容させることや、羽ばたいていくことのメタファーに思えました。つまりリラをヴィオレッタという別な形で表現して羽ばたかせていくということ。

ヴィオレッタは「ヴィオレッタ・カッサン」という名を名乗って、コンサートの舞台へ立ちますが、リラとヴィオレッタ、そしてリラの母親リリがここで重なり完成形になったかのようでした。カッサンというリラとリリのファミリーネームを背負ってるヴィオレッタ。それは決して喜ばしいことではなくて、憧れのリラの実態を知ったヴィオレッタの絶望感を癒しなだめるための唯一の手段という感じ。クルクルと回ってリラとヴィオレッタがシームレスに切り替わりながら熱唱するシーンは圧巻でした。分身が本物を呑み込んで、昇華させていくかのような狂気すら感じました。
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