ノラネコの呑んで観るシネマ

シークレット・ヴォイスのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

シークレット・ヴォイス(2018年製作の映画)
4.3
あー、トリッキーな映画だと思ったら「マジカル・ガール」の監督か。
歌い方を忘れた記憶喪失の歌手リラを復帰させるため、彼女の歌まね動画を投稿しているヴィオレッタが秘密のコーチとして雇われる。
「累〜かさね〜」にも通じる、ホンモノとニセモノのアイデンティティ葛藤の話かと思えば、それだけではない。
もちろん「オリジナルって何だろう?」という部分は重要な要素なんだが、ここには更にリラとヴィオレッタ、二組の母娘の切ない愛憎の物語が複雑に絡み合う。
歌い手として、作り手として、母として、娘として、リラとヴィオレッタはそれぞれ何者になりたかったのか。
この世の出来事は、全て陰と陽の組み合わせ。
一つの愛は一つの憎しみを生み、誰かの幸せは別の誰かの不幸とワンセットというのは「マジカル・ガール」と同じなので、監督の世界観なんだろうな。
さすが欧州の韓国、スペインらしく「恨(ハン)」を感じさせる情念の物語。
ドレスやレコードのジャケットなど、小道具の象徴性が印象的だが、なかでも折り紙の舟がうまく使われている。
荒れ狂う海に漂う舟。
そして一度折ってしまえば、平紙に戻しても折り目がつくから、何度でも誰でも同じ形に折りあげられる。
人生ってそんなもん。
なるべく情報を入れずに鑑賞するのがおススメ。