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シークレット・ヴォイスのyのネタバレレビュー・内容・結末

シークレット・ヴォイス(2018年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ヴィオレタ。トラウマを刺激するような娘の行動と、“Phantasm”と大きく書かれた娘のTシャツ。母の、娘に対する恐怖心と愛情とが共生しているような感情、そこに存在しない「夫/父親」の影を示していると思う。行きずりの男とセックスして生まれた子なのか、死別したのか、ADHDの娘を置いて離別したのか、はたまた娘がレイプされ自殺未遂に陥ったのか、かつて彼女らに何が起こったのか真には分からない。「娘が生まれた日=地獄の始まり」 に出会った一人の女性の音楽に心から心酔するきっかけも、そこにある気がしてならない。リラもまた、アイデンティティに関わる重大な部分で母親との確執を抱えており、これは2組の母娘の物語だと言える。

自分は自分でしか過ぎず、他の誰をも変えることはできない。「スーパートマトと、スーパートマトになりたいポテト」、と自戒の念を込めるように彼女は反復したのだろう。リラからヴィオレタに向けた「真似るのなら本物の“リラ”を真似て」という台詞がとても印象的だった。自身をいくら蔑ろにされようと耐え抜き、自作の曲にタイトルすら付けられなかった女性が、“リラ”を利用されそうになった途端、彼女の尊厳を守るために強い意志を見せる。咄嗟に彼女がそう口にするように、「私は“リラ“」であったのだと思う。歩んできた道(=折り紙で造られた舟)は、折り目さえついていれば、全くの他人でも同じ形に造ることが出来る、人生の虚無。“自分”を見失い“リラ”になることを選んだ2人の女性が、互いに溶け合い、名実ともに“リラ”ではない1つの存在になっていく。まさに魂の邂逅を視た。
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