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シークレット・ヴォイスのホリのレビュー・感想・評価

シークレット・ヴォイス(2018年製作の映画)
4.2
主人公が切り替わるタイミングが上手い。
自殺未遂から記憶喪失になった主人公の女性(歌手)は、10年ぶりの歌手復帰ツアーを控えていた。
しかし、10年というブランクと、記憶喪失になっていることから、彼女が歌手に戻るための指導者が必要であった。

広大な家を探索する間に、彼女は、ネットで自分の名前を検索し始め、歌手であった自分自身の動画を見返していく。
そこで、自分自身の歌マネ動画に辿り着き、外見までそっくりな女性を見つけることになるのだ。

歌マネ動画に、徐々にカメラがズームしていき、黒みが入った後に、バー(クラブ)にいる主人公のシーンに繋がっていく。
一人の男性と会話をした後、自宅に戻るのだが、この自宅が明らかに、作品序盤に出てきた広大な家とは異なる。
「違和感」を抱かせたところで、主人公に見えた女性は、自宅のドア前で、さらっとウイッグを取る様子を見せるのだ。

この監督は、映像内に独特な違和感を残すことが特徴的で、登場人物の情報源を明確に提示した上で、その情報をあっさり裏切るような演出を取ってくる。

広大な家内のシーンでも、
主人公のマネージャーが「あなたがコンサートに出ないと、この広大な家をまず売ることになる」といった、後々、違和感の裏付けをさせるような台詞を事前に食い込んでくる。

なので、広大な家ではなく、異なる自宅前に立っていても、結局コンサートには出ず、家を売った後の話になっていくのかと、頭を整理させようとした上で、裏切った演出をしてくるのだ。

長回しも特徴的で、
バーシーンにおける、
①マネージャーと歌マネ女性のやり取り
②歌マネ女性と男性記者のやり取り、
この二つのやり取りをワンカット内で見せ、マネージャーが急用で席を外した後、
記者と名乗る男性がマネージャーが座っていた席に現れることになる。
記者は「何で、あの歌手のマネージャーと一緒にいるの?歌手の情報を売って欲しい」と探りを入れてくる。
しかし、この記者は、マネージャーが仕込んだ偽記者で、歌マネ女性が、秘密を守れるかどうか、それを判断するためのアクションであった。

ワンカット内で、この関係性を見せることで、見ている当初は「仕込み記者」であると感じさせない間合いを演出している。

それと同時に、歌マネ女性が本当の意味で、この歌手をリスペクトしていることが感じ取ることができ、作品終盤の「娘の命」と「歌手である彼女の命」を天秤にかけた時、娘の命ですら見劣りする説得力に繋がっていく。
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