♪ BOTHER POSER 這い上がれ 今すぐ
泥水被るような世界 笑え
何だかんだと言ってみても。
日本は幸せな国だと思います。
少なくとも、本作の状況を肌感覚で“解る”…そんな人は数少ないと思いますから。
舞台は南アフリカ、ケープタウンの一角。
犯罪がミルフィーユの様に重ねられ、その隙間から流れる赤い血は大地に吸収されて、目の前に広がるのはひたすらに黒。黒。黒。
そんな国で生まれたら。
遠くから衣食住に困らない世界の笑い声が聞こえてきたら。
そりゃあ、呪いますわ。
そりゃあ、欲しがりますわ。
クズのクズによるクズのための世界から手を伸ばし、煌びやかな服と、舌が落ちそうになるディナーと、快適な温度が保たれた家に憧れますわ。
でも、それを手に入れるために必要なのは暴力。
親も、子供も、神も、撃鉄を引いて消すことを躊躇わない暴力。
それを屈託なく行使する気持ちは。
たぶん、日本でぬくぬくと暮らす僕に“解る”ことなんて出来ません。どれだけ頑張ってみても“解った”気になれるだけです。
まあ、そんなわけで。
この世の地獄をサラリと描いた物語。
端的に言えば南アフリカ版『裏窓』なんですが、登場人物の誰にも共感できないので“ひたすらにツラい”だけの展開が続きます。気軽に手を伸ばすのはオススメできません。
よく僕は「覚悟」とか言いますけども。
修羅の国では「覚悟」と口にする時間の余裕なんて無いのでしょう。殺るか殺られるか。その選択が永遠に続くだけ。やはり、日本は幸せな国だと思います。
だからこそ。
現状に甘えていたらダメなんでしょうな。
手を伸ばすこと、足掻くこと。それが人間の証であるならば、明日を疑わず、惰眠を貪る我々の方が非難されるべき存在…そんな気がしました。圧倒的な地獄の前では。