horahuki

ラビッドのhorahukiのレビュー・感想・評価

ラビッド(2019年製作の映画)
3.7
作るべきは大衆向けか?
限られた人のみのアートか?

ワキにできた女性器から生えてきたナニを男どもにぶち込んでいく伝説的変態映画のリメイク。力の入ったホラーリメイクが連発されてる近年でも、オリジナルの知名度的にそこそこの注目作なのかと思ってたらDVDスルーな扱いがなんか可哀想…。

オリジナルとの大きな違いは性欲お化けになるローズにしっかりとしたキャラクター性を与えたところ。オリジナルでは開始早々交通事故に会い、目覚めた時には変容が始まるという無個性キャラだったけれど、本作では何を目指し何に悩んで暮らしているのかをしっかりと描いた後に交通事故という起点を配置している。

面白いのはリメイク製作に向けた問いのようなものが語られるところ。冒頭に書いたものもその内のひとつなんだけど、ファッション業界でデザイナーを目指しカリスマの元で修行しているローズとモデルを目指すチェルシーが、コンビでそのカリスマに認められようとする過程こそがソスカ姉妹からクローネンバーグに向けたメッセージであり、決意表明でもあるように読み取れてしまう。実際にローズとチェルシーは血は繋がっていないけれど姉妹のような関係性だと当人たちが語っており、リメイクに向けた問いかけはカリスマから発せられる。

それだけリスペクト捧げてるだけあって物語的にはオリジナルに近いリメイクにはなっているのだけど、描かれているのは似て非なるもの。人間の本質を炙り出そうとしたオリジナルに対して、本作が描くのは顔やスタイル、ファッションといった外向きのアーマーでガチガチに武装しなければ勝ち残ることのできない女性の社会進出の難しさに対する厭世的な視点。そして男性社会から要求(強要)されるアーマーで自分を偽り続けることによって内側に充満していく人には見せられない欲求の爆発。外と内の矛盾・乖離という点ではオリジナルと同じなのだけど、本作はフェミニズム映画の要素が強い。

ヒッチコックの『知りすぎた男』ほどではないけれど、クライマックスの大舞台にスリルを充満させておきながら、よくわからんカメラアングルのせいで全くスリルが花開かずに終わったのは残念。あのシーンこそ外と内の乖離がもたらす負を最大限に描く重要な見せ場だと思うのだけど…。あとさすがに説明セリフ多過ぎやし、色んな要素盛り込み過ぎてて纏まりなく散漫になっているのも残念な感じ。

でもフレーム外から現れ付き従うことによるスリルとか面白いところもあったし、非常事態宣言を出すか出さないかの議論とか、サーズと違って風邪みたいなもんなんだからファッションショー開催しても問題ないでしょ?とショーを強行する主催者の姿勢は何かタイムリーだなぁと見てて面白かった。
horahuki

horahuki