YAJ

12か月の未来図のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

12か月の未来図(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【成功体験】

 うちの奥さんのアンテナにひっかかった作品。今のフランスの教育問題を扱っているが、移民、貧困、格差など、我が国においても、すぐそこにある未来。いや、日本語教育の現場にいるうちの奥さんにしてみれば、もう既に身近な問題でもあるか。

 フランスの学園モノなら『奇跡の教室』(2014)を観ている。コテコテの定番スタイルの物語展開だったけど、生徒一人ひとりの深堀りによる厚みやストーリーの分かりやすさから感動も大きい。お蔭で、そこで描かれた背景、フランスの教育現場の現状も多少は分かった上なので、本作『12か月の未来図』の諸事情も非常に理解しやすかった。

 本作は、ひとりの問題児と教師、両者の成長の物語だ。『奇跡の~』ほどドラマチックな展開があるわけでもなく、クラス全体の一体感が醸し出されるような大団円もなく、むしろドキュメンタリとも言えそうな些細な日常が描かれる。

 中学校が舞台で、学校には評議会なるものがあり、問題となる生徒は「退学」させられる。日本の教育制度とは違う厳しい現実も垣間見れる。その伝家の宝刀(退学勧告)を以って片付けようとするコトナカレ主義にも一石を投じるかのような、実は骨太な主張も含まれている。

 それにしても教育の問題は難しい。けれど根本のところは、お互いの信頼関係かと。それは学校でも家庭でも同じなのだろう。そして、若き未完の可能性の成長の糧となるのは、成功体験である、という素晴らしいモチーフをさりげなく提示した、控えめで抑制の効いた、静かにおススメしたい佳作。

“新学期ロードショー“ってキャッチも「いいね!」



(ネタバレ、含む)



 フーコー先生が実に良い。 良いというか、最終的にとても良い人に見えてくる。最初は、彼が主役とは思えない。エリート校のベテラン教諭としての冒頭のシーンでは、高圧的に生徒を見下し答案用紙を返却する(点数も公表しながら)。これがフランスの学校のやり方なんだなぁ、なかなか厳しい教育を実践していると思って観ていたが、どうやらフーコー先生の権威主義的な一面を強調していたようだ。
 要は、ヤな奴として、あるいは教育現場の現状の姿として描かれていたのだろう。見た目もパっとしないし、美人政府高官のハニートラップに容易に堕ちるダメっぷりで、主人公然としてない点が実に面白い。

 そんな彼が郊外の問題校に1年通い、どう変わっていくかを見せるのがこの作品のメインテーマ。教育により、生徒をいかに変えていくか?どんな手法でやる気を引き出すか? ややもすると学園モノはそんな視点で描かれるが、子どもたちを変えていくには、教える側も、教師本人が変わっていかなければならないという大事なことが描かれているのだった。

 フーコー先生を演じたドゥニ・ポダリデスは、フランスが誇る劇団コメディ・フランセーズの正座員とのことで、喜劇役者というやつだろうか。確かに、ひとつひとつ、小さな仕草や表情が可笑しかったりする。誠に細やかな演技で、大げさでなくフーコー先生の1年間の移り変わり、心の機微を表現していた。

 問題児と並んで腰かけ、互いにハートブレイクに暮れるラストシーンの後姿は、同病相憐れむを越えた師弟の絆、心の通い合ったことを表現した忘れがたい名シーンだと思う。
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