マリオン

クーリエ:最高機密の運び屋のマリオンのレビュー・感想・評価

3.5
まるでジョン・ル・カレのスパイ小説を読んでいるかのようなリアルなスパイ・サスペンスだ。しかも実話だというのだから驚きである。キューバ危機の舞台裏で重要な活躍を果たしたソ連の大佐とごく普通のセールスマンの危険で地道な諜報活動をスリリングに描き、国を超えた絆を育んだ2人の関係性にグッとくる一本だ。

ごく普通のセールスマンが東欧への出張が多い事を見込まれてソ連の機密情報を持ち帰る極秘任務を依頼される。迫り来る核戦争の脅威から家族を守りたいという想いがセールスマンを危険な任務に突き動かしていく。それはソ連の行く末を憂い、家族を大切にしているソ連の大佐も同様である。国は違えども家族と平和を愛する同じ人間として交流を深めていく2人の関係性は「ブリッジ・オブ・スパイ」のアメリカ人弁護士とソ連側のスパイを思い出す。

しかし世界情勢はみるみる悪化し、2人にも危険が迫る。絶望的な状況となった2人はそれでも信念を曲げようとはしない。巨大な権力に負けない平凡な人々の意志や過酷な状況下で交わされたやり取りに胸を掴まれる。また核戦争が現実のものになろうとしていた冷戦時代の重苦しい空気感や地道な諜報活動をスリリングに描き出すドミニク・クックの堅実な演出も見事だった。

そしてベネディクト・カンバーバッチの演技も凄い。「まさかここまで変貌するのか!」というぐらい印象をガラリと変えてくるので驚いた。脇を固めるメラーブ・ニニッゼやレイチェル・ブロズナハン、ジェシー・バックリーの存在感も素晴らしい。あとアベル・コジェニオウスキの重厚な劇伴もよかった。
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