けんたろう

ラヴィ・ド・ボエームのけんたろうのレビュー・感想・評価

ラヴィ・ド・ボエーム(1992年製作の映画)
5.0
【2020年5月3日の記】
芸術の都パリ…のド底辺で3人の貧乏芸術家(画家・作家・作曲家)が意気投合し、話の面白車輪が序盤から爆速で回転しまくるおはなし。

3人の神がかった連携、何食わぬ顔で張るハッタリ、必ず被害に遭うジャン・ピエール・レオ、ぎゅうぎゅうの三輪自動車がもう可笑しくてしようがない。起こる度に大笑いした。

もちろん彼らに降り注ぐ危機は山のように積もるのだが、大体の事は上記の可笑しいもので解決されていく。
…間違った。解決されて解決破棄されていく。これがまたおもしろい。

貧乏性だけど愛情と友情は必ずあり、いつも可笑しく、時おり小粋。そんな3人がとてもとてもとても愛おしかった。



だからこそ、映画は切なくて哀しい。堪らなく哀しい。
美しすぎる花が枯れる様子はやっぱり見ていられない。

振り返らざる男の背中に、雪が降る。
春はやってくると信じたい。



【令和五年十二月晦日の記】
酒と煙草と貧乏人。
画家と作家と作曲家。

動き。表情。酷く可笑しき、滑稽なる様相。
友情。美しき友情。至極美しき、畢生の友情。

言葉は要らぬ。顔も要らぬ。必要なのは目だけである。目だけで総べてが伝はるのである。

だから友よ。
何も云ふな。表で煙草を吸ふだけでよいのだ。

だから友よ。
何も映すな。其れを眺めたる者の目だけでよいのだ。

悲哀も歓喜も幸福も。果ては不幸だって何んだって。必ず彼れは、冷酷なるユーモアと究極の優しさとを以て描き切る。然うして至上の美しさを持ちて、我々の眼前に登場せらる。

畢竟、粋である。役者も撮影も音楽も。無粋なことは毫もせない。
最後だって、最高に格好良い。
何故かと云へば、皆なまで云はぬからである。然し皆なまで云はずとも、解るのである。解るのを敢へて云はぬのが格好良く、又た美しいのである。

斯うして書きたる私しが最も野暮ったい。
最高の作品を前にして、酷く不味い文を書いちまった。
あゝカウリスマキよ。アンタが悪いのだ。アンタが此んな最高の作品を作りやがるのが悪いのだ。だから何うか、此の心打たれちまったオイラの糞ったれた乱筆をお許し願ひたい。


①2020年5月2日 DVD
②令和五年十二月廿七日 ユーロスペース 2