元空手部

王国(あるいはその家について)の元空手部のレビュー・感想・評価

4.0
ショットが切り替わるたびに発せられるセリフの音量も変化する。また、会話のシーンでは、ショットに映る人物のセリフの音量に対して他の人物のセリフが小さいなど、等閑的な音響設計が行われていない。これは推測に過ぎないが、マイクを定位置に設置して撮影をしていたように思える。同心円的な音の配置により発せられる声がどの場所から響いているのかという空間性があった。
これにより立ち現れてくるのは、音声的な身体だ。声と場所が絡み合うことで身体的な重みが生じている。
さらに興味深い点として、本作の反復構造が挙げられる。本作は台本の特定の場面の、定められたセリフの本読み作業を繰り返し繰り返し、反復していくシーンが大半を占める。要するに同じセリフを幾度となく繰り返し発声しており、映画が進むにつれてセリフの中身の意義は薄れていく。
意味に囚われない純粋な音に近づく。この、純粋な音への接近にこそ音声的な身体が生じる要因があったように思える。
映画に音の力を取り戻した作品であったように思える。
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