あんがすざろっく

スプリングスティーン・オン・ブロードウェイのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

4.5
やった〜ネトフリじゃ〜‼️
奥さんからの許しは貰えない故、ギフトカードという奥の手を使いました。
でもこれでNetflix見れるもんね。

ネトフリに入ったら一番最初に見たかったのはハンス・ジマー先生のライブでしたが、なんと配信が終了していた…😱OTL

ならば、ジマー先生の次に見たかった作品を。
ここからむちゃくちゃ前置き長くなりますよ。
多分1人で勝手に盛り上がってると思うので、飽きたら途中で閉じて下さい m(_ _)m


数年前に某有名CDショップにアルバムの予約をしに行ったんですよ。
対応してくれたカウンターのお姉さんは結構可愛い。そこで少しテンションあがりました。

私 「すいません、ブルース・スプリングスティ              
   ーンのアルバムを予約したいんですけど」
店員「お待ち下さい。カチャカチャ…
   ブルース…もう一度よろしいですか?」
私 「スプリングスティーンです」
店員「カチャカチャ…スプレ…」
私 「スプリング…スティーン…」


…店員さんは悪くないんですよ。
新しく入った子かもしれないし、普段自分が聴かないジャンルの音楽のアーティストって、メジャーでも知らないことありますしね(僕もヒップホップやR&Bの人はほとんど知らないかも)。

しかし僕はこの一件が、日本でのスプリングスティーンの知名度を如実に表している気がして、少し凹んでしまいました。



ブルース・スプリングスティーン。愛称ボス。
1972年にデビューし、現在も精力的に活躍する
アメリカを代表するロックンローラーです。

初期の頃はほとばしる情熱をぶちまけるようなシャウトで、青春の雄叫びを表現するナンバーが多かったのですが、徐々に社会的なテーマを扱うようになり、自らに問いかける内省的な曲も増えていきました。

1stアルバムの「アズベリー・パークからの挨拶」は1973年発表。
光に目もくらみ。成長するってこと。
まだフォークとロックの中間のような瑞々しさがあります。
続けて2ndアルバム「青春の叫び」を発表。
その後スプリングスティーンと蜜月関係を築くEストリートバンドとセッションしています。
彼らとの絆を刻み付けるようなEストリートシャッフルに始まり、ロザリータ、ニューヨークシティ・セレナーデへ。

3rdアルバム、「明日なき暴走」は1975年発表。
ここでいよいよ、スプリングスティーンは自らのスタイルを確立します。
走り出したくなるような衝動、抑えられないロックへの渇望が、スプリングスティーンのしゃがれ声を通して耳に、体の奥底に飛び込んできます。
涙のサンダーロード。凍てついた10番街。夜に叫ぶ。裏通り。明日なき暴走。彼女でなけりゃ。ミーティング・アクロス・ザ・リバー。ジャングルランド。全8曲。捨て曲無し。
僕の生涯のベストアルバム5本指には入ります。
無人島にも絶対持ってく。

4thアルバム「闇に吠える街」は1978年発表。
ライブでの定番、バッドランド、アダムとケインを収録。
また本作に収録されているレーシング・イン・ザ・ストリートは後述するスプリングスティーンの笑い話の元にもなっています。

5thアルバム「ザ・リバー」は1980年発表。
CD2枚組の大作。
タイトルナンバーが暗い雰囲気の楽曲なので、そのイメージが強いのですが、アップテンポなロックも多く、何と言ってもハングリーハートが収録されている‼︎
個人的に愛しのシェリー、クラッシュ・オン・ユー、キャデラック・ランチも大好きです。

6th「ネブラスカ」は1982年発表。
アコースティックギターとハーモニカ、オルガンで奏でられるフォークアルバムは、それまでのスプリングスティーンのイメージからはかなりかけ離れていて、これをしっかり聴けるようになるには、かなり時間がかかりました…。「ザ・リバー」の時から、その片鱗は見えていたのかも知れませんが。

多分一番有名なアルバムは1984年発表の7th「ボーン・イン・ザ・U.S.A」でしょう。
タイトルナンバーはベトナム戦争からの帰還兵の心情を歌っているのですが、曲調がアップテンポでキャッチーなメロディであることから、愛国歌として曲解した受け取り方をされ、スプリングスティーンも悩んだと言います。
1998年の未発表曲やアウトテイクを集めた「トラックス」というアルバムに「ボーン〜」のアコースティックバージョンが収録されていますが、このバージョンが本来曲の持っているテーマ性にピッタリ合っていると思うし、僕は断然こちらの方が大好きです。
ただ、ヒットはしないだろうなぁ。
売れるにはキャッチーな曲にしなきゃいけないし、今のスプリングスティーンの音楽があるのは、この「ボーン〜」の壁があったからなんでしょうね。
しかし、アルバムにはマイ・ホーム・タウンやグローリー・デイズなどの名曲も収録されており、魅力的なアルバムであることに変わりはありません。

さて、そんな「ボーン〜」の後に発表されたのが、8thアルバム「トンネル・オブ・ラブ」(1987年)。
ジャケットがまるでボズ・スキャッグスです。
この時期はスプリングスティーンも相当悩んでいたようですね。

1992年にはアルバム「ヒューマン・タッチ」と
「ラッキー・タウン」の2枚を同時リリース(9th、10th)。
2枚組にしなかったのは、「ヒューマン・タッチ」完成直前に新しいコンセプトが浮かぶも、同じアルバムに収録するには無理があったから、だそうです。
地味な2枚ですが、僕は何気に好きなアルバムです。最初から通して聴くと、中だるみや飽きることがありません。
地味ですけどね(笑)。

1995年には、初のベストアルバムを発表。映画
「フィラデルフィア」の主題歌「ストリーツ・オブ・フィラデルフィア」から好きになった僕は、ここからスプリングスティーンにハマっていきました。

同年発売の11th「ゴースト・オブ・トム・ジョード」は、とにかく暗い…。
「ネブラスカ」を思い出しました。
が、こちらもやはり聴けば聴く程味わいが出てきます。

12th「ライジング」は2002年発表。アメリカの同時多発テロ後の作品で、アルバムにも強い影響を与えています。
ロンサム・デイで孤独な日々を歌い、マイ・シティ・オブ・ルーインズで
「さぁ立ち上がれ‼︎」と拳を振り上げるまで、
力強い内容に圧倒され、自分も何度もリピートして聴いてました。

13thの「デビルズ・アンド・ダスト」は2005年発表。再び内省的なナンバーがひしめくアコースティックアルバムですが、「ネブラスカ」や「ゴースト〜」ほどアコースティック色は強くなく、ライブでも披露されることの多いロング・タイム・カミングなど、実は緩急のあるアルバムにもなっていて、今では好きな作品の一つです。


14th「ウィ・シャル・オーヴァーカム:ザ・シーガー・セッションズ」は2006年発表。
このアルバムだけはまだ聴いていないのですが、フォークシンガーのピート・シーガーのカバーアルバムです。機会があれば自分も聴いてみたいと思っています。


15th「マジック」は2007年発表。
1曲目のレディオ・ノーウェアが鳴り響いた時、ガツンとやられました。まだまだスプリングスティーンはロックを叫べる‼︎
本当に、マジックでした。
ガールズ・イン・ゼア・サマー・クローズも、爽快感があって気持ちいいナンバーです。

16th「ワーキング・オン・ア・ドリーム」は2009年発表で、「マジック」のエネルギーをそのまま受け継いだような傑作です。
僕はよく「マジック」と一緒に通して聴いています。

17thの「レッキング・ボール」は2012年発表。盟友クラレンス・クレモンズを亡くした後、それでもスプリングスティーンは前を向きました。
やはり彼の基盤にはロックの血が流れていて、
ウィ・テイク・ケア・オブ・アワ・オウンやタイトルナンバー、ランド・オブ・ホープス・アンド・ドリームなど、社会的な問題を含んだ歌詞でありながらも、それをロックのリズムで表現しています。

18th「ハイ・ホープス」は2014年の発表で、カバー曲やライブで披露していたナンバーのスタジオ作品などを集めた作品です。
何よりも印象的なのは、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロの参加で、アルバム12曲中8曲で、彼のギターを聴くことが出来ます。もの凄い存在感です。

そして2019年、19thアルバム「ウェスタン・スターズ」で、オーケストラと融合した壮大な世界観を構築。スプリングスティーンは新しい次元に踏み込みました。


この他にもライブアルバムも発表しており、
1986年の3枚組ライブ・ベスト・アルバムは聴き応えもボリュームも文句無し。
個人的には3rdアルバム「明日なき暴走」のナンバーをメインにしたハマースミス・オデオンのライブアルバムも大好きです。

前述した未発表トラックをあつめた「トラックス」は、4枚組、69曲。
シーサイドバー・ソング、ハート・オブ・ストーン、サンダークラック、ピンク・キャデラック、ウェア・ザ・バンヅ・アー。
好きなナンバーが多すぎる‼︎
実はレビュー最初に書いた予約をしに行ったアルバムは、これの再発でした。

また、3rd〜4thアルバムの頃の未発表曲を集めた「ザ・プロミス」というコンセプトアルバムもありますが、こちらもどうして今まで発売しなかったのか、と思うぐらいの完成度です。

はい、ここまでブルース・スプリングスティーンの紹介でした〜。
まだ本編にも入っていない(笑)。



さて、それではそろそろ本作
「スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ」のレビューへ。

これはスプリングスティーンが行った1人舞台公演を映像に収めた作品になります。


2017年10月、ブルース・スプリングスティーンはブロードウェイの舞台に立ちます。
スプリングスティーン自身の自叙伝を元に、彼の生い立ちや、数々の名曲の誕生物語を、時に語り、時に切々と歌い上げます。

舞台上には、黒いTシャツをラフに着たスプリングスティーン唯一人と、ギターと、ピアノのみ。
大掛かりな舞台装置も、煌びやかな衣装も、セッションするバンドもない、飾りを全て取り払った剥き出しのアーティストがいるだけ。
巨大スタジアムを常に満席にしてきた、彼の新しい挑戦。
収容人数1000人にも満たないブロードウェイで分かち合う、スプリングスティーンとの時間と空間の物語。
ギターを爪弾き、掻き鳴らし、ピアノに向かい、ブルースハープを奏でながら。
唸るように、絞り出すように、観客に語りかけるように。
時に感情を爆発させながら、スプリングスティーンの物語は2時間を一気に駆け抜けます。
月曜日から金曜日まで、週5日の公演はロングランとなり、延べ236公演、約1年間行われました。
セットリストや語りの内容は変わることがなかったと言いますから、同じ物語をスプリングスティーンはほぼ1人で、1年近く繰り返し続けていたことになります。
このエネルギー。このスタンス。
生半可な覚悟では出来ないことです。
自分を曝け出さなければ、成し遂げられなかった偉業です。

彼の魅力はパワフルなライブパフォーマンスでもありますが、今回は腰を落ち着け、観客と対話するようにステージが進みます。
時にユーモアを挟む語り。

意外なことにスプリングスティーンは運転免許証を持っていないのですが、免許証もないのにレーシング・イン・ザ・ストリートなんて曲を作った、と自虐的な笑いを誘ったり。
会社員になりたくないからミュージシャンになった、週5日で働くのは今回が初めてだ、とか。
工場とかで働いたことはないけど、労働者の歌を歌うのが得意なんだ、と吐露したり。

会場は爆笑に包まれます。

そして、彼の口から語られる、父親との関係性。
順風満帆という訳でもなかったようです。
本人も涙を浮かべる場面があります。

スプリングスティーンらしいクラレンス・クレモンズへの追悼の後には、割れんばかりの拍手が巻き起こります。

ヒット曲「ボーン〜」の秘話にも触れ、そこから弾き語りに流れていく訳ですが、やはりこの曲は歌い上げるより、アコースティックの方が胸に迫るものがあります。


奥さんのパティ・スキャルファもゲスト出演し、デュエットを聞かせてくれます。

これは語りの部分は英語が分からないと、辛いものがありますね(笑)。
字幕があって良かった。

スプリングスティーンは日本でも勿論人気はあると思います。
にも関わらず、来日公演の回数はかなり少ない。

確かに彼のパフォーマンスはエネルギッシュだし、会場で見れたら、最高に盛り上がるでしょう。
ただ、彼の魅力の一つが語りであり、昨今の社会的テーマ、自己との対話を歌詞に反映していくナンバーが多いことを考えると、やはり英語やアメリカの現状が理解できないと、伝わりにくいという部分も抱えています。
かくいう僕も、英語は全然分かりません(笑)。
これがスプリングスティーンの来日公演の少なさ、ロック畑の人以外にはあまり知名度がない理由の気がします…。

こんなことを書くと批判されるかも知れませんが、僕は音楽を聞く時、あまり歌詞を見てないんです。洋楽の好きな曲のほとんどは、ちゃんと歌詞を理解していないかも知れない(笑)。
僕にとっては音楽はメロディとアレンジとグルーヴだと思っているので、曲の雰囲気が好きになってから、これは何を歌ってるんだろう、と気になって歌詞を調べることはあります。
だけど、それも稀で、音楽は耳で聞くと同時に、体が反応するかどうかだと思ってます。
だから、スプリングスティーンの歌っていることを自分も完全には理解できていない人間です。

今回のライブがネトフリで配信されると聞いた時から、僕はただ見るだけではいけない、と思っていました。
彼が語る言葉や物語を、ちゃんと理解しなくては。

ネトフリ配信よりも前にアルバムも発売されていて、こちらのライナーノーツには、語りの対訳が全て載っているとのこと。
僕はネトフリに入ったらすぐに本作を見ようと、まずアルバムを聴いて、彼の語りの内容を頭に入れました。
結局、ネトフリにも字幕は付いていたけど(笑)。

だけど、アルバムで聴くのとライブ映像を見るのは臨場感が全然違う‼︎

渋い‼︎カッコ良すぎる‼︎
そしてどこまでも誠実で、全ての物事に真正面から向き合う人なんだな、と、改めてブルース・スプリングスティーンが好きになりました。
僕はどうひっくり返ったって、ここまで自分に正直に、人生を見つめられないな…。
これからは歌詞もしっかり理解していこう(笑)。


なかなか来日は叶わないですけどね、その時までには英語を勉強しておこうかな、とも思います。
いや、でも「明日なき暴走」なんてライブで聞いたら、無条件で
「ウォウォッウォッ ウォ〜オウウォ〜‼️」
なんて拳を突き上げてるんだろうなぁ。
あんがすざろっく

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