YAJ

セメントの記憶のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

セメントの記憶(2017年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

【動的平衡】

 "長い内戦を乗り越え、バブル経済真っただ中にあるベイルートの超高層ビルの建設現場を捉えたドキュメンタリ"
 との紹介文であるが、想像していたドキュメンタリという印象を越えた、メッセージ性の高い映像作品だった

 ベイルートの復興、建設現場を支えるのは、隣国シリアの内戦を逃れてきたシリア人移民難民の労働者たちという構図。
 同じセメントでも、片や復興し聳え立つ高層建築の基礎を創り上げるセメント、片や爆撃で崩れ去った住居の瓦礫のセメント。破壊と創造、分かり易い対比がスタイリッシュに描かれている。

 印象的なパースの利いた、コントラストの高いシーンが、目に焼きつく。一見、コマーシャルフィルムか、ミュージックビデオを思わせ、無機質な印象を与えるが、なかなか意味深だった。



(ネタバレ、含む)



 スタイリッシュな映像は、見せたいものを執拗に見せる、少々シツコイところがタマニキズ。そこに目を瞑れば、登場人物にはひと言も喋らせない抑制の利いた演出と、映像をして全てを語らしめる展開がお見事。

 瓦礫と建築現場のセメントの対比、クレーンと祖国を破戒し尽くすタンクの砲身との対比、リフレクションを多用した正像と鏡像の対比などが見事にハマっている。

カメラワークも、ベイルートのシーンはきっちりと固定カメラで高層ビルの建築現場を幾何学的に浮かび上がらせる一方で、戦火のシリアはハンディカメラの揺れる映像で臨場感がハンパない。
 計算の過ぎる映像が、ちょっとアザトイんだけど、分かり易い。

 水たまりに写る鏡像のシーンをたくさん見せられると、ある意味、表裏一体の世界という印象も受けた。恐らく、今後、シリアが復興特需となれば、どこからか人が流れ込むだろう。どこかで街が崩れれば、またどこかで復興される。Scrap & Build を人の世は繰り返えし、全体としての動的平衡が保たれている様を見せられた気もした。
 それは監督ジアード・クルスームの意図とは恐らく違うのだろうと思うけど。

 シリアの内戦が落ち着き、街が復旧される日が待たれる。ベイルートへ逃れたきた彼らも祖国復興のために戻ることだろう。特需が生まれれば、さらに近隣諸国からも労働者がやってくるだろう。
 それが戦火による難民移民でない、単なる出稼ぎ労働者であればと願うところだ。
YAJ

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