ずどこんちょ

アスのずどこんちょのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.5
ホラーです。良かったです。考えさせられる謎や伏線が多く含まれています。
『ゲット・アウト』の監督なので、社会的メッセージも込められていて奥深い。というか、ホラー映画に社会的メッセージを込めてしまう強気なセンスが嫌いじゃないです。
激しく血生臭かったり、夜が怖くなるような恐怖系の演出ではないので、ホラーが苦手でも目を逸らす事なく見れるのではないでしょうか。どちらかと言えば緊迫感。

ある日突然現れた、自分たちと全く同じ姿形をした"影"の住人たち。
彼らは長らく日の当たる世界で生きてきた我々を恨んでいて、その立場を奪い取るために現れたのです。
幼い頃に迷子になって自分そっくりの少女に出会うという恐怖体験をしたアデレードも、今は家族を作っており、夏休みを利用して別荘に訪れました。そこでの夜に、アデレードたち一家は彼らの襲撃を受けるのです。
アデレード一家が殺人を躊躇わない化け物相手に、なかなか奮闘していてスリルが高まります。ちょっと都合が良過ぎる気もしましたが、姉と弟が武器を片手に拉致された母親を救いに立ち上がった時は、頼もし過ぎてもはや勝機が見えていました。

ちなみに、アデレード一家の友人の家主たちが殺害された時、瀕死の重傷を負いながら息も絶え絶えに「警察を呼んで」とAIスピーカーに話しかければ、当たり前のように聞き間違えて流れてくる警察を非難するロック音楽。
本作は恐怖の合間にところどころ皮肉めいたジョークも入っていて面白いです。
お父さんが自分の分身(しかもちょっと間抜けな感じ)を倒したのも、あまりにも鈍臭いラストで……あれ、実は笑って良かったやつなのかなぁ。

1986年に実際に行われた貧困救済のチャリティイベント"ハンズ・アクロス・アメリカ"。当時、監督はこのイベントが問題解決に繋がることに違和感を感じていたらしく、本作では赤服の彼らが強い団結力で繋がっているという不気味さの象徴で描かれています。人を襲った後、なぜか手を繋いで列を繋ぐ彼ら。
どこまで繋がっているのか、その果てまで見てみたかったものです。ほぼ数秒ごとに誰かが列に加わってるだろうから、あんな静止してなくて波のようにどんどん横にズレていってるんだろうなぁ、なんてつまらない事を考えたり。

彼らの正体を知った時、この実際のチャリティイベントとの共通点も分かって恐怖の象徴として持ち出した理由が見えてきます。
最初にアデレードたちから素性を尋ねられたレッドが「我々はアメリカ人だ」と訴えるのも、同じ人間なのに閉ざされた世界で生きてきた彼らと、日の当たる世界で生きてきた彼らとの立場や環境の格差が生まれる事に対するメッセージが込められているのです。境遇の違いが生き方を変えてしまうことを忘れてはならない。深刻な格差社会となった現代に送る強いメッセージです。
一方で、今思えば"彼女"に関して言えば、もう一つの違う意味も込められているような気もしますが。

ラストに明かされる彼らの真実、そして彼女の真実を知れば散りばめられた伏線も見えてきます。
ジェイソンが自分の分身を倒した時、どうにも違和感があったのですが、彼らの行動パターンを知ればよく分かりました。それに、アデレードが幼い頃の体験でトラウマを抱えてしまった意味も…。
伏線を練り上げ、ウサギや「11」などの意味深なアイテムも使って、とても不気味に仕上げたホラーだったと思います。