てっぺい

アスのてっぺいのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.5
【立体的なスリラー映画】
なぜ目の前に自分がいるのか?次第に明かされる全容とその世界観。まるで小さな穴を抜けて、その先に広がる巨大な地底空間に没入していく感覚。立体的な脚本映画を体感する。
◆概要
監督は「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール。製作は「パラノーマル・アクティビティ」シリーズのジェイソン・ブラム。出演は「ブラックパンサー」のルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デュークら。デューク・ニコルソン(ジャック・ニコルソンの孫)デビュー作品。
◆ストーリー
家族とともに夏休みを過ごすため、幼少期に住んでいた家を訪れたアデレードに、過去のトラウマがフラッシュバックしだす。家族の身に何か恐ろしいことが起こるという妄想を次第に強めていく彼女の前に、自分たちとそっくりな“わたしたち”が現れ……。
◆感想
自分たちの前に現れた“わたしたち”が誰なのか?目的は何なのか?次第に明かされていくその全容と世界観。まるで大きな空洞の地底への小さな穴があって、その穴に落ちた瞬間から、壮大な地球の裏側への没入を体感していく、、言ってみればそんな映画だと思う。

◆以下ネタバレ

◆立体的
監督の前作「ゲット・アウト」には、「膨らんだ緊張の風船が臨界点に達して、一気に破裂する」感覚を覚えた。今回は前述のような、地底世界に堕ちていく感覚。少女と“鏡の少女”とのただ一点である接点を通して、次第に地下世界の全容が明らかになり、さらには少女が入れ替わる、“地上と地下の逆転”的な構成。映画を通して頭の中にそんな立体が想像される感覚で、脚本が言ってみれば、とても立体的に作られているように思う。
◆緊張感
“11章11節”のボードや、ビーチに立つ血まみれの人物、来るぞ来るぞなゾクゾク感はさすが。分かっていながらも、家族四人と全く同じ別の四人が目の前に対峙するシーンが緊張感マックス。これからどうなっていくのか全く分からない、あのシーンがこの映画のピカイチだと思う。ただ正直そこからは、呆気なく人が死んでいくよくあるスリラーになってしまってた感。。
◆貧富の差
この映画が描きたかったのは、詳細は置いといて、広くは貧富の差だと思う。地下の人間たちは、クローンとして作られ、意思もなくただ地上人の模倣だけの生活(想像を絶するけど)。“太陽のもと、木々と暮らす”地上人の生活を妬み羨む。これは、貧富の差から生まれる、アメリカ(に限らずだけど)にはびこる自由度の差、という映画表現だと思う。テザーであるレッドが見つめたエスカレーターが下り方向のみだったのが印象的。貧の象徴である地下と、地上という自由の地への圧倒的な距離感、もっと言えば他の何かからの圧力、という表現だったのか。

ハンズ・アクロス・アメリカ(実際にあった、貧民が参加出来なかった活動らしい)も盛り込んだ強烈な風刺や、立体的な脚本。アウトプットとしては1つのスリラー映画ながら、才能や映画の可能性を感じさせる、奥深い作品でした。
https://www.instagram.com/p/B2GOG-1FqX6/?igshid=7im7ysmnka7r
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