にしやん

アスのにしやんのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
4.0
2017年公開の「ゲット・アウト」で「わしら差別とかしてへんし、それどころか好きなんやで」とか言うてる白人の白々しさを炙り出しつつ、今でも根強く残る人種差別の本質を斬新な切り口で描いてアカデミー賞脚本賞を受賞した、コメディアン兼俳優でもあるジョーダン・ピール監督の待望の新作や。本作も前作に負けず劣らず、アメリカを支配する富める人々と貧しき虐げられた人々、表向きのまやかしの国の姿と裏のほんまの国の姿という、アメリカの現状を思いっきりえぐっとるわ。

この本作は前作同様監督によるオリジナル脚本やねんけど、前作、本作ともに「社会派作品」と「エンタメ娯楽作品」との両立っぷり相変わらず見事やわ。誰が観てもドラマとしておもろいし、かつ社会的なメッセージも強烈で誰が観ても考えさせられるやろ。脚本、ストーリー展開も中々よう出来てるんとちゃう?何も起きてへんのにずっと不穏な雰囲気の序盤、それがちゃんとホラー的な恐怖として回収される中盤、さらにそれらが寓話的に回収される終盤からラストにかけて、どれもこれもちゃんと刺激的かつ映画的な描写になってるわ。

主人公家族の二役の描き分けはめちゃめちゃ恐いし、おもろい。とりわけ奥さん役のルピタ・ニョンゴの演技は凄かったな。特に序盤は彼女の内面的なもんだけで、何も起きてへんとこで不穏な雰囲気を生みださなあかん場面で、説明や無しに内面的な演技だけで伏線を張ってたとこなんかは大したもんや。旦那さん役のウィンストン・デュークもなかなかの好演やったけど、子供役がめちゃめちゃええわ。本作での子供の不気味さって只もんやないわ。子供の中に子供やないもんが入ってるように見せるんて結構難しいんとちゃう?どうやったら恐いんかがよう分かってるわ。

細かいストーリーについてはネタバレになるさかいやめとくけど、アメリカの貧困層がいかに見て見ぬ振りをされたまま今に至っているんか、更に富裕層や中間層による慈善的な活動の「偽善」「白々しさ」を、決して説教臭あれへんおもろいストーリーの中でストレートに曝け出したりもしてる。アメリカが国として内包する欺瞞やアイデンティティへの疑念を問いただす手法が前作同様実に鮮やかやな。ラストのオチかて別に珍しいもんではないけど、現代アメリカ社会への批判がグサッと刺さるさかい、ビビッてしもたわ。

日本にかて格差はあるし、格差はこの先どんどん広がっていくやろ。この映画観て素直に「怖い!」と感じた人は、この資本主義社会で豊かな暮らしを送ってる恵まれてる階層なんかもしれへんな。「格差を自覚してるやつほど見て見ぬ振りしてる」っちゅう恐怖、「どっちの人生もあり得る」っちゅう恐怖、もっと究極には「社会の階層がひっくり返されるかもしれへん」っちゅう革命への恐怖やな。ラストの「壁」は分断の象徴かいな。ちょっと中途半端なSFみたいな感じもして「んな、アホな」とも思たけど、実際わし等のうのうと笑てる場合やないやろ。最後にダメ押ししてきょんな。

上層、下層に関わらず全ての階層の人間の足元を揺さぶるような映画や。「あなたたちは誰?」「アメリカ人」。きっついな。ゾクゾクすんで。
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