むーしゅ

アスのむーしゅのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.1
 アメリカのコメディアンJordan Peeleの映画監督2作目。幼少期にトラウマ体験をして以降近づくことがなかったサンタクルーズへ家族と共に訪れたアデレードは、そこで自分達にそっくりなドッペルゲンガーの家族に出会うのだが。。というお話。前作「ゲット・アウト」に続いて今回もやっぱりホラーということで、期待が高まります。

・テーマは「格差」
 本作のメッセージは、幸せは誰かを犠牲にして成り立っているということ、つまりは社会に存在する「格差」がテーマとなっています。登場するドッペルゲンガー達はテザードと呼ばれていますがこれは「繋がれた人」という意味であり、富を享受する人々の犠牲として繋ぎ止められている人=自由を奪われた人を差します。
 また作品全体で登場し続ける「ハンズ・アクロス・アメリカ」はアメリカに存在するホームレスと飢えを救うために1986年に実際に行われたチャリティ活動であり、主人公のアデレードが幼少期にそのTシャツを着ていることから、彼女も格差が存在していることを認識し、活動へ参加したと考えられます。しかもこの活動で作る人間の鎖もまた自分の意志とはいえ繋がれた人となることを示しており、他にも家族がテザードに対峙した際に"Tether yourself to the table.(テーブルに繋げ)"と手錠を渡される等、様々なかたちで「繋がれる」ということが表現されています。格差社会を無くし自由を奪われた弱者にも目をむけようということですが、最近はこの手の話が多いですね。

・大味演出にがっかり
 そんなテーマを伝えることに前のめり過ぎたのか、率直に言えば本作はかなりの大味になっています。その理由は「ゲット・アウト」でもお馴染みの前半から匂わせるやり過ぎホラー感により、過剰なほどそちら方面に舵をきられていることによるものです。前作同様目を見開いた黒人のアップや不気味な演出はもちろん、強化された不気味な音楽や人間離れしたテザードの身体能力等、相変わらずのB級ホラー演出てんこ盛りです。伝わらなかったら嫌だからがっつり入れとこうというような演出に、この人"MADtv"のノリで演出してないか、と感じてしまいます。アメリカンジョークじゃないので、次作はもうちょっと肩の力を抜いて欲しいですね。正直、本作は悪演出に飽きるスレスレまで来てました。

・タイトルのUsが示すものとは
 同じく対峙シーンでもうひとつ印象的なのは、姉のゾーラが困惑する中、弟ジェイソンの"It’s us."という台詞。ジェイソンは誰よりも早く、テザードが「自分達」のドッペルゲンガーであることを認めます。タイトルにもなっているこの"Us"という言葉ですはその後の台詞でもわかる通り、米国を示す"U.S."とのダブルミーニングになっています。これは先住民を押しやることで生まれた米国らしく、テザードのような異形達もまた私たちでありアメリカ人である、ということであり、彼らはただ自分達の人権を尊重してほしいだけなんですね。
 しかしそんなダブルミーニングをのせたこともあり、本作はとにかく言いたいことが前面に出すぎています。もう後半はアメリカ人によるアメリカへの政治的な抗議活動にしか見えてこないですね。前作も差別をテーマにやんわりと政治的なメッセージを伝えていましたが、今回はストレートに伝えすぎ。上記の大味演出もそこから来ているのかもしれませんがここまでストレートだと映画作品としては萎えてしまいます。

 さて前作では"Get out!"と言われる話かと思いきや言う話という逆転がありましたが、今作は"Tethered"ということに対し逆転が起きており、この逆転芸を今後は得意としていくのかなという片鱗が見えました。ただ今作はかなりフィクションに寄っており、サスペンスではなく完全にホラーになっています。前作が良かっただけに期待値が高かったということの影響が大きいですが、大味演出及び強すぎるメッセージの本作はどこをとっても前作越えはならず、次作に期待したいです。
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