灰田

アスの灰田のネタバレレビュー・内容・結末

アス(2019年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

ホラー映画と思って見始めたのでそこまで怖くなかったけど、途中でそうじゃないと気づくことができて良かった。
まず冒頭のテレビに映るHands Across America これは1986年に実際にアメリカで行われた運動で、アメリカの多様な人々の融和と統合を世界に発信するようなものだった。しかし現在のトランプ政権でも白人至上主義的な国づくりを訴えていてそれが表層的なものに過ぎなかったことは証明されている。

タイラー一家、彼らは白人で裕福な家庭だ。主人公一家は貧しい(タイラー一家に比べて)。これは富裕層と貧困層、そして白人と黒人。タイラー一家と主人公一家を用いてアメリカにおける経済的人種的格差を表しているのだと思う。タイラー一家がクローン達に襲われた時、キティがスピーカー型のAIに向かって「警察を呼んで」と言ったが「警察なんてクソくらえ(Fuck the police)」と認識されてしまい、同名の音楽が再生されてしまう。この楽曲は、1980年代に白人警官が黒人に対する不当な捜査や逮捕に対する批判を歌った曲だ。それが裕福な白人一家が殺害される場面で流れるという状況はとても皮肉めいたものだなと感じた。

僕は赤い服を着たクローン達を黒人、もともと地上に住んでいた人達を白人に見立てているのだと仮定しているけれど、劇中の「私たちはアメリカ人だ。」というセリフには黒人の人達の強い主張が見えたような気がした。

白人と黒人の関係性がこの映画の地上に住む人々と地下に住むクローンの関係に投影されているように思える。現在、世界中で人種的または経済的な分断が起こっている。その事実から目を背けるなという監督からの警笛のような映画だなと僕は思った。

ラストシーンについて、本物のアデレードは子供の頃に地下に住むクローンと入れ替わっていた。他のクローン達は喋れなかったが、アデレードのクローンだけ辛うじて喋る事ができたのは子供の頃に入れ変わったからだろうと思う。
最後にはクローンのアデレード(地上で暮らしていた)が本物に勝利する形になった、これは白人に対する強烈な皮肉だろう。
灰田

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