クロ

バースデー・ワンダーランドのクロのネタバレレビュー・内容・結末

1.5

このレビューはネタバレを含みます

劇中の、猫が登場して裁判が行われるシーン。全部カットしてもいいくらいどうでもいい場面なので、たぶん原作には描かれていない部分なんだろうなと思って映画鑑賞後に原作をざっと読んでみたけど、案の上猫の場面はなかった…と思う。ではなぜこの映画ではわざわざあんなシーンを挟み込んだのか。それは主人公が通っている小学校の授業で描写されている番所に答えがある。

小学校の授業では宮沢賢治のことが板書されている。宮沢賢治といえば「注文の多い料理店」。きっと注文の多い料理店リスペクトのつもりで猫を出したんだろう。そういえばこの映画の王子が身を呈して世界を守ろうとする描写は「グスコーブドリの伝記」に似てなくもない。まあ少なくとも宮沢賢治の描こうとしていたイーハトーヴの世界のような、理屈とかじゃないファンタジーな世界を作るというのを意識してるだろうなと思う。そういえば『河童のクゥと夏休み』にも宮沢賢治が一瞬だけ登場するね。

原恵一がどれくらい宮沢賢治のことが好きなのか、影響を受けているのかわからないけど、いわゆる児童文学を映画化するにあたって、宮沢賢治の作品のような設定、キャラクター造形を目指して今作のようなファンタジー映画を作った結果、毒にも薬にもならないような退屈なファンタジー映画が出来上がっただけのように思う。世界観の説明、設定の説明に終始し、なんら感覚で分かるような要素がない。そもそも原恵一にこういうファンタジーの映画は向いてないと思うんだよな。「カラフル」みたいにメッセージ性の強くない映画にしようと思ったのかもしれないけど、「私たちの世界はなんでもあるけど~」のとことか説教臭すぎてこの映画の空気とかみ合ってないと思うんだよな…だいたいそっちの世界には魔法があるだろいい加減にしろ!元々原恵一は映画のテーマを作中で語りたい傾向がある人だと思うので、この手のファンタジーは向いてないんじゃないかなあ。

原恵一といえば未だにクレしんの2作が語られることが多くて自分も未だにその監督というイメージが強いんだけど、この2作は「その世界での悩み」を軸に「現在」を語るからこそ面白かった映画のように思うな。この映画は現在も分からないし、その世界の悩みも漠然としている。厳しい出来だったな…
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