チョマサ

バースデー・ワンダーランドのチョマサのレビュー・感想・評価

5.0
5/24
原恵一監督の新作。
ファンタジーと宣伝されてたけど、これは旅行映画だと思います。映画を見る前に旅行に行きたい映画だったって感想を読んでたのもあるけど、見終わったあともやっぱりこれは旅行映画だと思う。

アカネの友達のお姉さんチィちゃんがバックパッカーでリュックを背負ってるところや、母からのプレゼントがある、チィちゃんがヨーロッパに旅行に行く話が前振りになっている。この映画は、『スタンド・バイ・ミー』といった旅を経て子供が成長する物語や、都会に疲れた人間が海や山に旅行に行って傷を癒すタイプの映画です。
ファンタジーなのはあくまで舞台設定や小道具だけで、大きな敵に立ち向かう物語じゃない。そこを見所に宣伝すればもっと理解されたと思うけど、もったいなかった。


この映画の魅力は、キャラデザのイリヤさんが担当したビジュアル。背景から小道具までデザインしているので、全部イリヤさんの絵の世界を楽しめた。画面いっぱいに咲いた赤い花畑にふわふわの羊に似た動物。その上に横になって眠るのを見ると、この世界に行きたくなる。アカネの家だって庭一面に咲いた花にテラスのブランコ、玄関のドアにステンドグラスが嵌め込まれた素敵な家です。ビジュアルにそれだけ魅力があるから、観ていて癒されます。悪役のザン・グたちの住む町は産業革命時代のロンドンぽくて、これはこれで魅力的でした。


原監督がインタビューでファンタジーは興味がない分野だけど、僕なりに攻めて作った、観客に想像してほしいと話してて、それはザン・グとアカネの気持ちを前のめりの錨や鉄人形といった小道具を通じて共感してほしかったり、映画内の小ネタ(『恐怖の報酬』のパロディ)とかそういった部分に込められてるんだと思います。

ドロポのザン・グに対する思いには泣かされたし、ザン・グの境遇って暴走族になってグレるのと同じだなとか、チィはあの性格があるから雑貨屋でどうやって食べていけるのかって疑問にも説得力があるなとか、そんなことも考えました。


アカネとドロポ、ザン・グは三人ともつまづいて、問題を抱えていて、この三人に同じ問題を抱えている子供たちへのメッセージが込められてると思います。

あと原作は青い鳥文庫から出てる『地下室からの旅』で、この本は1980年代末に出た本です。だから「専業主婦は気楽でいいよな」ってセリフはその時代が反映されてて、この映画の現代のビジュアルとちょっとずれてた気もします。個人的には、あのお母さんを見ていて自分が困ってたら、そうも見えるわなーと思います。
クライマックスも原監督がカラフルで語っていた料理場面がクライマックスになるのに通じていて、らしいし見ごたえのあるラストでそこもグッと来ました。
チョマサ

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