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家族ゲームのarchのレビュー・感想・評価

家族ゲーム(1983年製作の映画)
5.0
劇場にて4Kリマスターで鑑賞。特に今回の4Kリマスターのこだわりの再生に力を入れたという"音"が本当に凄い。囁き声や咀嚼音、それらの粒だった音が本作のそもそものポテンシャルを引き出していた。森田芳光らしい「聞く映画」だった。

松田優作がこの作品を撮り始める前に「5cm浮いた演技をやろう」と出演者に言ったそうで、その言葉はこの映画を見たものであれば誰でも納得だろう。
本作を構成するあらゆる要素が抽象的に何か示唆したもののようでありながら、ただちょけているだけの装飾でもある。それらは笑いを引き出しながらも真を食ったような演出としてただのコメディにしない辛辣さを兼ね備えてもいる。
森田芳光は食事シーンで家族の違和感や混沌の予兆を描く人というイメージがあるが、特に7分間の長回しによる食卓シーンは笑えるコメディになりながらも、互いに向き合おうとしてこなかった家族にもたらされた当然の破綻として、悲惨な悲劇でもある。

また決して悪意ある家庭教師を招いたことで家族が崩壊した、という話ではないというのがこの話のいい所。
家族というのは外部からは干渉されないため、客観視の出来ないコミュニティであり、そこに"他者"が紛れ込むことで家族がその内部に抱える破綻に薄々と気づいてしまう。そして破綻の先に"寝る"という行為による逃避があることが何より悲劇たらしめているのだと思う。

最初から最後まで異色の作品、登壇された宮川一郎太さん等の存命の方々の話も聞けたこと、そして松田優作さんの命日の1日前に見れたことは忘れられない記憶になると思う。
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