エミさん

盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~のエミさんのレビュー・感想・評価

3.2
インド映画。視覚障害者と偽り、周囲の助けを受けながら生きる青年ピアニストが殺人事件に巻き込まれる話。マサラムービーにはお馴染みの歌もダンスもコメディー要素もしっかり楽しめます。

始まりのシーンはキャベツ畑を荒らすウサギ。そのウサギに何の関係が!?というのは、ラストでちゃんと拾われてます。繋がった時に、「あ〜そういうことかぁ」と、アハ体験みたいなホッコリ感が得られます。

2時間半で、ちと長いなぁ〜と辛くなりそうな時に、歌やピアノ演奏のシーンが挟まるのが有り難くて、長くても頑張って観られるのがマサラムービーの良いところ。でもこの作品、サスペンスなので物語の展開がとても面白いです。ただの殺人事件で加害者と目撃者が何やかんやだけでなく、被害者と加害者が色んなイザコザが絡んで何度も入れ替わって、全員に小さな身の危険が何度も訪れるので、組んず解れつのハラハラが、緊張とさせられました。

そして特筆すべきは、やはり音楽。『ピアノを引くシーンのある映画に敬意を払って』とエンドロールでもクレジットされるだけあって、ピアノを弾くシーンを丁寧に綺麗に魅せています。ピアノの旋律が美しいクラッシック曲だったり、タンゴ調にアレンジされた曲だったり、ザ・インド映画なダンス曲だったりと、サントラの力の入れ具合が特徴的です。

主人公アーカーシュが白杖を頼りに何とか道路を渡って街中で休憩をしていると、クジ売りのオバちゃんがやって来てアーカーシュの隣に座っている別の男にクジを売りつけるシーンがある。そしてアーカーシュに「アンタが代わりに選んでおくれよ。アンタには福が付いてるんだから」と言うのだ。
沢山のインド映画を観てると、歌い踊って勧善懲悪のエンタメ性を追求した華やかな映画が多いので、陽気なイメージを持つが、実は社会的には宗教問題や貧困問題、性犯罪も多いという陰の部分もある。だから、この作品を観て、街の人たちが自然にアーカーシュの介助をしている様子を知って、面白い表現だなぁ、インドの人たちも障害者には寛容なんだなぁ、と感心しました。

日本でも最近は個性と言って尊重する風潮が出てきている。行動によってはつい、弱者という偏見を持ってしまったりするが、その『特別』を神格化すると、自分にも運が返ってくるようで、接するのも楽しくなってくるかも知れない。
『障害は個性』という表現も素敵だなぁと思っていたけど、それを更に偶像という表現にすると、視野が広げられて、差別は軽蔑ではなく特別に変えられるので、音楽と社会問題と、テーマがすごく面白い楽しい作品だなぁと感心しました。