「最後にこの風景の中で綺麗な田中議員の姿を撮影してもいいですか」
ラストのこの台詞に、田中愛議員は初めは気が付かなくて。
ぎこちなく、でも「美しすぎる議員」として微笑む笑顔が、段々と何かに気が付いて言葉を失う子供のように変わる表情が胸を打ちました。
綺麗な田中議員。と彼は呼んだんです。
「芸能界に入った時に女は捨てています」の言葉どおり、夢の実現の為に邁進する彼女に。
美しいけれど、決して綺麗事だけで逃げたりしない彼女に。
そんな自分に葛藤しながら、でも、夢を叶えるために笑って、「美しすぎる議員」として前に進む彼女に。
カメラを向けて。
そっとファインダーを閉じて。
これは恋の物語。
輝く夕陽も美しい星空も無いけれど。
畑の中で。生活の中で。子供を愛おしむ母親の微笑みがまぶしく美しい物語。
先ずは。その事に心を奪われる映画でした。
タレント時代に番組で初めて訪れたこの街のこの畑。田中愛議員を撮影したのは村上ディレクターだったのかなとか。語られないけれど、気が付く人は気付く物語。
ねぎ味噌のお味噌汁も撮影で愛ちゃんから差し入れて貰って飲んでいたのかもしれません。
愛ちゃんがこの街を選んだ理由。
トマトを貰った時にお母さんを思い出したのではとか。
お母さんの力になりたくて議員になって、そして側にいたかったのではと。
伏線。伏線。全ては想像。
ここに来てさすが五藤利弘監督作品と唸ってしまいました。
「さびしんぼう」の大林宣彦監督の映画には監督のミューズがいる気がします。
富田靖子と思いきや、実は藤田弓子とか。
「ふたり」では石田ひかりと見せかけて、中嶋朋子だったり。
大林宣彦監督のファインダーを通すと、柔らかく優しく輝き出すので直ぐに分かります。
映画を通して、監督のミューズを愛おしむ気持ちが伝わる時があります。
村上ディレクターはタレント時代から愛ちゃんの応援をしていたのではとか。
側にいたい。密着取材に取り組んで、愛ちゃんの素晴らしさをみんなに伝えて応援したいとか。
では。
川村ゆきえさんの実力に目を見張りました。
芸能界に入った時に女は捨てました。
彼女の言葉のようにも感じてその潔さ明るさ強さに心惹かれます。
女と扱われる為に、あえて、女を捨てる。
ならば誰も彼女を傷つけることは出来ません。
美しすぎる議員では変えられない議会。
問題は権力を掌握する議員にあるのだとしたら。
出来る事はスキャンダルでその地位から降ろすこと。
でも、自分も議会を追われることになります。
街からも。
自分を信頼してくれる市民から追われる形で。
お母さんみたいなぬくもりからも。
でも。
この美しさの為にこの映画はあったのではと。
愛ちゃんの話なのか川村ゆきえさんの話なのか。
美しすぎる議員役に登用する事で恐らく、本来の彼女の魅力を周知出来て。
すごく分かりづらい。不器用な。でも彼女の才能を信じている。純粋な。これは多分、もう一つの恋の物語。
そして。
美しすぎる議員の活動を通して、女性問題を紹介する映画でもあって。
夫のDVからの避難生活を送る母子が、美しすぎる議員の取材を切っ掛けに夫に見つかり、行方が分からなくなるお話しに。
かつて夫から入院手術するほどの怪我を負わされた身としては思う事も多かったです。
結果論は何とでも言えるのです。
当事者しかわからない、あの家族だというのに密閉された異常な空間の中で受ける暴力の心の傷は、自分を圧倒的に味方してくれる人を渇望してます。
あなたは暴力を振るわれて当たり前の人間ではない。
そう言ってもらえるだけで。
取り戻せる何かがあります。
救いの無いようで、あの状況下に、愛ちゃんに「ありがとうございます」と電話を切った母子のこれからに光を見ました。
それは。わかる人に伝われば良いと思います。