blacknessfall

新宿タイガーのblacknessfallのレビュー・感想・評価

新宿タイガー(2019年製作の映画)
3.6
新宿に通勤したことがあったり遊んだりしてた人なら虎🐯のお面つけた派手な服装の新聞配達員を1度は目にしたことがあるであろう。新宿のシンボルとして有名な新宿タイガー🐯さんのドキュメンタリー。

おれが直近で見かけたのは3ヶ月前ぐらいだと思う。武蔵野館前で相変わらず虎🐯のお面にカラフルなカツラ、そしてカラフルを通り越したド派手なコスチュームだった。
タイガー🐯さんを見かけるのは映画館の近くが多いなと思っていた。1度は映画館の中で見たこともあったし。
それもそのはずでタイガー🐯さんは映画好きで休日は3本ハシゴすることもあるダイ・ハードなシネフィル。本作では『キング・コング 髑髏島の巨神』『3月のライオン』を鑑賞。どっちも楽しめたようでご満悦だった笑
しかし、メジャー系ばかりじゃなくミニシアター系の映画も熱心に追ってる。ここで井口昇監督のコメントが入り、客の少ないマニアックの映画の上映の時に何度もタイガー🐯さんがいたと語っている。
そう、映画を観る時もいつものタイガー・コスチュームだからタイガー🐯さんだとわかる笑

タイガー🐯さんにとって映画は美女とアートを愛でるものらしい。とにかく美女が大好きで、中でもオードリー・ヘップバーンがお気に入りで『ローマの休日』は10回以上見てる笑
でも、ただの女好きではなく映画やアートについて語るシーンから高い教養が滲み出る。

何でそんな教養高い人が珍妙なコスチュームで新聞配達をしてるのか?その謎の一端が解き明かされる。
新宿タイガー🐯さんが🐯になったのは1972年、本作の撮影が2017年なのでこの時点で🐯歴45年!現時点で50年!1948年生まれだから撮影時69歳。まさかそんな前から🐯だったとは思わなかったので驚いた。
そして、🐯をやってる理由が愛と世界平和ためと知ってさらに驚いた笑 正直単に目立ちたいだけの変り者だと思ってたのから。
しかし、何故🐯が愛と平和なのかわからない。神社のお祭りで売られていた虎のお面を見て直感でこれしかないと思ったとしか言ってくれないから、本当に外からは合点がいかないんだよ笑

でも、タイガー🐯さんの想いに嘘は微塵もないことだけはよくわかる。自分は金も権力もいらない、シネマと美女と愛と平和があれば、的なことをタイガー🐯さんは本作の中で何度も口にする。団塊の世代らしい反権力と革命の理想に燃え、それが挫折した後にたどり着いた感慨のように思えた。学生運動時代の肯定的な発言や若松孝二監督を崇拝してるところからの推測だから本当のところはわからないけど。
ただ、タイガー🐯さん自身は理想に燃えていたが学生運動とは距離を取っていたとも言っていた。タイガー🐯さん、確かに反骨精神は感じるけど闘争的な感じじゃないんだよね。闘いより愛を語りたいロマンティストの雰囲気がある。口調もマイルドで終始笑顔でいる(お面🐯を外して話すシーンがかなりある!)。

何よりタイガー🐯さんに取って重要なのは革命よりロマンと美女。推しの女優さんがいっぱいてその女優の舞台を見に行ったり、その後女優さんと飲むことが無上の幸せで、とにかく精力的に推し活してる笑 一緒に飲んでる時にここまで言うのかってぐらい女優さんに賛辞の嵐を浴びせまくる、そしてニコニコ笑って幸せだと連呼する。金や権力なんかより美女なんだと心から話す。端から見ると推し女優さん、そこまで美女じゃねぇだろ、と見える人もいるけどタイガー🐯さんは絶世の美女で名女優だと褒めちぎり同席したことに感激する。

なんか心底羨ましいと思ったよ。なかなかないじゃん、これが価値だと言い切れて酔いしれることができるもの、これさえあれば自分として生きていけると確信できることって。「世の中が今より排他的になっても自分は影響されない」とタイガー🐯さんは断言する。
タイガー🐯さんの好きなもの(美女)と自身に対するこの圧倒的な肯定力を少し分けてほしくなったよ笑

しかし、ドキュメンタリーなのにタイガー🐯さん、徹底的に秘密主義なんで新宿で🐯になる以前のことは出身が長野であることしか明らかにされない。自分語りをしない上に言語感覚と世界観がオリジナルだから🐯と愛と世界平和の繋がりもわからない。にも関わらずタイガー🐯さんの愛すべき人間性はビンビンに伝わってくる。おもしろいドキュメンタリーだ笑
blacknessfall

blacknessfall