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ワイルドツアーのQTakaのレビュー・感想・評価

ワイルドツアー(2018年製作の映画)
4.1
スクリーンに映る「映画」と、その「制作過程」、それら全てに惹かれる体験だった。
監督三宅唱とこの映画のために選ばれた若者達、その対話の中から紡ぎ出されたこの物語が、「作り物」とは思えない愛おしさを感じさせた。
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今回この映画を、『三宅唱スペシャルナイト at シアターキノ』で見た。
このイベントは、「ワイルドツアー」と「きみの鳥はうたえる」の二本立て上映。
そして、三宅監督が、「ワイルドツアー」について話をしてくれた。
この映画「ワイルドツアー」、初めの依頼に対して、映画の体裁で作成される予定は無かったという。
ただ、依頼された映像制作に対して三宅監督の答えは、「僕らにはやっぱり物語や劇も必要だ」ということだった。そして、その映像制作は、地元の中高生との交わりの中から得られた刺激が満載の現場で編み出されたようだ。
その制作過程のためか、この映画は摩訶不思議な雰囲気を持っている。
それは、まるでドキュメンタリー映画のような、青春映画のような、演劇のような。
その絶妙な表現に、スクリーンに釘付けにさせられる。
見終わっても、一体何を見たのだろう?と思わせる。
それは、まさに映画鑑賞のなせる技だと思う。
面白い体験ができたように思う。
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映画の中から”このシーン”
そう、この映画は、「映画」です。
ストーリーもあり、心模様もありです。
そんな微妙な心の揺れを若者達が演じていることに拍手。
その中で、”このシーン”と思ったのは。
野外活動で撮りためた映像を編集する場面。
その映像に、うめちゃんの可愛らしい画がある。
彼女に告白しようと心に決めたシュン君が、画面に映るうめちゃんを見つめている。
そのシーンに、シュンの心が見てとれる。
それは、この時間が、この季節が、永遠に続くかのような、幸福感では無かっただろうか。
いつまでも続く”今”。
そんな思いで過ごした季節は、誰にでもあるのではないだろうか。
それは、淡い願望でしかなく、次の季節を迎えて初めてわかる。いや、忘れる。
そんな繰り返しを経て、大人になっていくのかもしれない。
その意味で、若者達のこの季節は、とても大切なのだと思った。
そして、その忘れ去られた時間を、自分の中に思い起こさせる。ん〜。
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上映の後、三宅監督のトークイベントがあった。
そこで、この映画はスクリーンに映されて終わるものではないとわかった。
オーディションでこの映画に出会った若者達。
その彼らと共に対話しながら作られた映画を楽しそうに語っておられた。
それは、まさに映画が生まれる過程を楽しみとして共有できたということだったのでしょう。
残念ながら私達には、その時間を直接感じることはできません。
でも、確かに、この映画の持つ不思議な魅力はその時間の表れなのでしょう。
スクリーンを前にして、ほんの少しその制作過程の楽しさをお裾分けしてもらった感じがします。
また、監督は、そんな彼らのその後についてもちょっと語ってくれました。
うめちゃんを演じられた伊藤帆乃花さんは、役所広司さんが監督したCMに出演されているとのこと。これを嬉しそうに語る三宅監督。
そして、シュンくんを演じた彼は、俳優を目指しているということも、嬉しそうだった。
この映画が生まれる過程で、いくつもの出会いがあったのでしょう。
そしてその出会いから、新しい一歩を踏み出した若者達がいるということ。
それこそが、この映画の意味であったのかもしれませんね。
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「映画」の可能性を求めたこの映画を見られたこと、楽しめたことに感謝。
もちろん、この映画を作った三宅監督や「俳優」の皆さんに感謝。
そして、映画が、さらに魅力的な表現としてこれからも生み出されることを期待したい。
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