Naoto

魔笛のNaotoのレビュー・感想・評価

魔笛(1974年製作の映画)
3.8
モーツァルト歌劇「魔笛」をベルイマンが映画化した作品。
フリーメイソンとの関連性を指摘される箇所はカットされている。

ベルイマンとは幼少期の経験から解離性人格障害のような苦しみ方をしてきた人だと思う。

その一つのペルソナが、神の沈黙3部作に見られるような神への不信感、前作「叫びとささやき」に見られるような愛への猜疑心を伴っていれば、もう一つのペルソナは、無垢な少年のように潺潺と澄み渡っていて愛に満ち溢れている。

本作「魔笛」には、というよりモーツァルトにはそうした多面性が秘められているので、ベルイマンが映像化に執心したというのも頷ける。

彼はタミーノのように愛する人に身を捧げたいと望み、パパゲーノのように戯けた明るさを求め、モノスタトスのように狡知を巡らす自分を忌み嫌い、夜の女王とザラストロのように決して主張が交わり合わない家庭というものに身を置いていることに辟易していたのだろう。

そしてそんな多面的な自分を観客のような俯瞰の視点で冷徹に眺めるもう一つのペルソナも存在する。(このペルソナがベルイマンを優れた作家たらしめていると思う)
時にせせら笑うように、時に煌めく湖のような麗かさで、その視線はひたすらに自己を見つめる。

そのペルソナを表しているのが、随所に用意された舞台に没頭する観客のカットなのかもしれない。

つまり本作は驚くほどベルイマンという多面的な人間そのものに見えるのだ。

そしてそんな自分自身とも言える重奏的な調べに彩られた歌劇は全てを包摂しつつ多幸感を伴うラストに収斂していく。
彼は魔笛の蠱惑的な音色に魅了され、苦悩の日々に一条の光が差すように、なされるがままその世界に身を委ねたのだと思った。
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