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魔笛のpikaのレビュー・感想・評価

魔笛(1974年製作の映画)
4.5
オペラは見たことがなくクラシック音楽をコンサートで聞くこともないズブの素人だけれども、今作はベルイマンがスウェーデンのお正月映画としてオペラと映画を融合させた作品なので子供でも見やすく家族で楽しめる素晴らしいオペラ映画だった。

ベルイマンは子供の頃からモーツァルトが好きで特に「魔笛」は自宅にて一人で人形劇にして遊んでいたりと思い入れも深く、舞台演出家になりたくて映画監督になってからも常に自分の職業は「舞台演出家」であることを重視し晩年も最期まで舞台を作り続けた。そんな長年の夢であった思い入れの強い「魔笛」をオペラ映画として二つの芸術を見事に融合させ作り上げた今作は素人でもめちゃくちゃ楽しめる傑作!

この作品は実在するオペラの劇場で上演されているものを撮影したという前提で作られてはいるが、オールセットでほとんどがスタジオ撮影。
幕開け前序曲で多国籍な観客達の表情がクローズアップされていき、一人の少女が強調され幕開け後も時折その少女の表情が挿入される。似てるなぁと思ったがホントにベルイマンの娘らしく、目がベルイマンそっくり!
「休憩」の遊び心などベルイマンのユーモアが滲み出ていて最高に楽しい!

ロングショットで舞台装置やセットが瞬間的に切り替わる舞台ならではの醍醐味を存分に映し出し、音楽や歌声を楽しめるオペラとしての舞台である必然性や空気感を損なうことなく引き立てる。
通常舞台では見ることができない部分を引き出し、肖像画のペンダントを用いて映画でしか表現できない面白さを映し出したり、役者にクローズアップし表情で語るよう思う存分演技を見せたり、舞台ではあり得ないがとにかく素晴らしく美しい感情の滲み出るカメラワーク(ニクヴィスト!)やカットの切り替え、スペクタクル溢れる映像の面白さを詰め込んでいる。
舞台である面白さに加えて映画である必然性が折り重なり、反発せず見事に融合していてとにかく凄い!

オペラは古典でもあるしストーリーを知った上で見ている人が多いと思うけど私は全く無知の状態で見たので、原作からの改変の面白さなどあるようだが、それはさておきこのアレンジだけ見て台詞の意図的なセンスや役者の演技による説得力など、展開やオペラの中にある記号ではない存在感や純粋に子供と観れる寓話としてめちゃくちゃ面白い!

モーツァルトによる音楽の素晴らしさに酔いしれ、歌の力に圧倒され、演技や演出のドラマに引き込まれ、パパゲーノというコミカルな存在でクスッとニヤニヤ楽しめ、劇的なスペクタクルで興奮し、様々な要素が壊れることなくそれぞれに引き立ってギッシリと濃厚に凝縮し最高のエンタテインメントとして楽しんだ。

こんなに楽しいとは思わなかった。
ホントにむちゃくちゃ面白かった。
ベルイマン凄過ぎ!!!!!



「魔笛」についてやヨーロッパに於けるオペラの位置付けなど今作について紐解きながら多方面から解説されているページがかなり興味深かったのでリンク。
https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/45343/1/KyoyoShogakuKenkyu_138_Ogino.pdf
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