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アラン・ドロンのゾロのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

アラン・ドロンのゾロ(1974年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

剣の達人ディエゴは高潔な理想を持つ旧友ミゲルと再会した矢先、彼が何者かの手で暗殺される。ディエゴはミゲルの遺志を引き継いでスペイン領ヌオバ・アラゴナの総督となり、貧しい人々を助けることを誓うが、同時に「剣で人を殺さない」ということも誓わされる…。

何度も映画化されている英雄譚に、ニヒルな犯罪者役が多いアラン・ドロンが珍しく挑んだイタリア・フランス合作のアクション・コメディの佳作。

ディエゴはミゲルの名を借りてヌオバ・アラゴナの地に総督として赴任する。
だが、その土地はウエルタ大佐率いるスペイン軍によって支配されており、貧しい農民たちは不当に搾取され虐げられていた。

その現状を目にし怒りに震えるディエゴ。
ミゲルを暗殺したのもウエルタ大佐と知ったディエゴは、彼は口が利けない従者のホアキンと協力し、農民たちを救う正義の盗賊「ゾロ」となって悪漢共を退治していく。

敵を欺くために表の貴族社会では臆病で無能な総督を演じ、裏ではゾロとして活躍する主人公のコメディとシリアスのギャップが面白い。
野心が滲み出る美しい顔で影のある役ばかり演じてきたドロンが、ヒラヒラして派手な色の貴族衣装を纏い、臆病で頼りない領主を演じるなんて、それだけでコメディ。

覆面を被ると、持ち前の剣の腕で兵隊たちを手玉に取って蹴散らし、その快活さで民衆の拍手喝采と信頼を得るヒーローとなる。
ドロンはその美しい顔を覆面で隠すのだが、覆面を被っても溢れだす色気に変わりはない。
ウエルタ大佐もゾロに惚れるヒロインのオルテンシアもどうして正体に気がつかないのか?
もしかして馬鹿なの?と笑えてしまう。

明らかにスタントマンとの吹き替えが分かるアクション演出だが、トランポリンを使ったジャンプや高所での危険な立ち回りなど立体的なアクションにはワクワクする。
拳銃を構える役が多いドロンだが、剣捌きもなかなか堂に入ったもの。
兵隊たちとは腕前の差がありすぎて、大人が子どもをあしらっているような立ち回りは何だか微笑ましく、まるでコントのようだ。
もう少し真面目にやれよ、とツッコミたくもなる。

耳に残るテーマ曲を含めて、BGMにはイタリアの陽気な音楽が流れており、何とも長閑な雰囲気で物語は進んでいく。

後半は展開が早い。
ウェルタの目を欺くために、自分があたかもゾロに命を狙われているかのように装うディエゴ。
ゾロに変身したディエゴは馬車に総督を人質に取っていると嘘をつき、強制労働を強いられていた民衆たちを解放。
追われたディエゴはウェルタの目の前で馬車ごと川に転落して死を偽装する。

ゾロとディエゴの死を確信したウェルタは支配権を握り、民衆の味方であるオルテンシアとの結婚を強行しようとする。
当然、民衆の反感はピークに達するが、そこに死んだはずのゾロが現れ、次々と兵士たちを倒す。
ゾロの姿に勇気をもらった民衆も奮起してスペイン軍に抵抗していく。

ゾロはミゲルと交わした不殺の誓いを破る決意を固め、ウェルタとの一騎討ちに臨む。
ウェルタの強さにさすがのゾロも苦戦を強いられるが、民衆の期待を背負ったゾロは次第にウェルタを追い詰める。

ゾロはマスクを外して正体を現し、射るような視線に怯んだウェルタにとどめを刺す。
民衆を圧政から解放し、亡き友の仇を討ったディエゴは、再びマスクをつけると颯爽とどこかへと去って行った…。

物語の前半は伏線となるお膳立てとユーモア、見栄を切るようなスタートの最後の決闘、そして揉め事を解決して流れ者が去っていくラストといい、マカロニウエスタンの影響が強く見られる。

簡単に言えば、列強国が植民地で搾取と圧政を繰り返す中で、マトモな統治者がやってきて悪を倒す。
虐げられた者が解放されて大喜びという結末だ。
残念なのは、人種差別か?高い年貢か?はたまたインフラ工事のためか?何のために民衆が虐げられいるのか?民衆を助ける修道士フランシスコがスペイン軍に人の道を説くものの、民衆の苦しみや主張が描かれないのは、庶民としては共感しづらいところ。
結局、植民地のままというのが腑に落ちないが、植民地側からすれば前任者よりはマシということなのか?
ハッピーエンドの余韻は強い。

ヒーロー然とした役どころが案外少なかったドロンもサマになっており、他の主要人物もキャラクターが立っている。
英国人スタンリー・ベイカーのいかにもプライドが高く憎たらしい悪役のウェルタ大佐、童顔のオクタヴィア・ピッコロの気の強い少女のようなヒロインもハマり役。
従者のホアキンや、役に立たないスペイン軍のガルシア軍曹、ミゲルの叔母にあたる前総督夫人のカルメンとその愛人となるフリッツ大尉も賑やかなコメディリリーフとして良い味を出している。

クライマックスで延々と続くチャンバラ決闘シーンを始め、マカロニウエスタンを多く手掛けたドゥッチョ・テッサリ監督のアクション演出も軽快で、気楽に見れる娯楽作に仕上がっている。
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