るるびっち

英雄は嘘がお好きのるるびっちのレビュー・感想・評価

英雄は嘘がお好き(2018年製作の映画)
3.2
なんだか随分クラシカルな内容である。
18世紀の『セビリアの理髪師』とか、コメディ・フランセーズで書かれた古典喜劇みたいだ。
当時の喜劇は恋と嘘がよくテーマになっている。
コメディ・フランセーズの先駆けモリエールなどは、「意識的な計略の嘘」で話を展開する印象がある。(個人の感想)
後の世代のマリヴォーになると「無意識の嘘」という印象だ。

モリエールの場合は、例えば求婚者を全部袖にするプライドの高いお姫様を口説くために、ワザと彼女に興味がないふりをする男...など、策略として嘘をつく場合が多い。
マリヴォーは、隣の女性を意識しているが、それは彼女がちょっとしたルールを守らない(今ならゴミ出しの日を守らない)女性なので文句を言ってやろうと思っている。本当は彼女の魅力に惹かれて会いたいのだが、貴族である自分がそんな卑しい気持ちがあるとは認めない男。
つまり自分自身に嘘をついている、或いは自分の本心に気づいていない...といった形で、モリエールより嘘が深層心理的に深まっている。

そういったコメディ・フランセーズを彷彿とさせる、なんとも古臭い映画だ。コスチュームプレイなので、余計にそう感じる。

恋い焦がれて病気になる妹を励ます為、英雄である大尉のフリして偽のラブレターを書く姉。
この辺はモリエール的な展開だ。
しかし妹は諦めて他の男と結婚し、そこへ肝心の大尉が帰ってくる。
ここからが昔の少女漫画みたいな、姉と大尉の争いと恋に発展する。
二転三転すると言われてるが、むしろ最初の妹と手紙の嘘のトリックがあまり活用できていない。
大尉の中身がいかにインチキなチキン野郎かの顛末だけで展開してしまい、嘘を中心にうまく描けているとは言い難い。まとまりに欠ける。

主人公の姉は、実はこのインチキ大尉に心の底で惹かれていたのだろう。
しかし理想が高いので、偽手紙の中で理想の英雄像を発展させてしまう。
そうした姉の隠された心理を、浮かび上がらせるよう描くべきだ。
インチキ大尉が帰って来た時、あくまで妹の為に手紙通りの英雄を演じさせる。その為に裏で彼をサポートし、逆じゃじゃ馬ならし的にみっちり調教する。けれど自分の恋心には気づいていないし、あんな薄っぺらな大尉に恋するはずがない、すべては妹の為と自分の心を偽る姉。妹の方も、夜な夜な姉と大尉がコソコソ何かしいているのを疑う。
実は妹の為の調教レッスンなのだが、妹は勘違いする。
調教している理想の英雄像は、姉の欲する姿で妹の求めている姿ではない。その事に気づいて、初めて自分に素直になる姉・・・
これならマリヴォー的な嘘が描けて、妹も絡めた三角関係が深く描ける。
モリエールに始まりマリヴォーに発展するなら、フランスの脚本家も面目躍如ではないだろうか。
男と女の恋は嘘から始まる。
そう言いたいなら、自分の所の古典劇くらい勉強してから描けば良いのに。
上っ面の二転三転なんか時間の無駄だよ。
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