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アブラハム渓谷のmareのレビュー・感想・評価

アブラハム渓谷(1993年製作の映画)
4.5
悠久の時を共に過ごしたかのような圧倒的密度で、ポルトガルの空気を肌で感じたと錯覚するほどに、映画を観たというより、人生の並走と空間の共有を果たしたかのような凄まじい没入感。時間感覚がフリーズし、3時間越えの大作だが、正直まだまだ観れるのではというほどに映像的多幸感が押し寄せる。エマの美貌と魔性に狂わされた男が何人も出てくるように、鑑賞者の自分もその一人だと確信する。直接的な官能描写に直結しない含みも相まって蠱惑的な深みが次第に増し「月の光」の旋律の中で、ゆらゆらと自分の生きている有限性から切り離され、気づけばその場にいるような。ナレーションがまるで絵本を読み聞かせてくれるように、ふとした時にこちらを繋ぎ止め、映画か文学の中にいるのかわからなくなる。この陶酔感はうまく説明出来そうもないが、今まで観た映画の中で最も永遠性を体感できたものであり、無限を帯びた到達点に達していると思う。
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