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ソニのkissenger800のレビュー・感想・評価

ソニ(2018年製作の映画)
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カースト制度にせよ女性蔑視にせよ、為政者が人を支配するためにつきつめて練り上げた成果、という認識なんですよね、突然語り出すようでアレですけど。
インド社会を遠く離れた異世界だと思って、たとえばこういう作品を一種のSFとして消費できるなら、余計なことは考えず「異世界日常もの」として楽しめるんでしょう。
ただ、日本社会にもカーストや女性に相当するものやこと(「女性に相当するものやこと」!)は確実に存在するわけで、その意味で、インド社会の現実と向き合うことで生じる軋轢を描いたこの作品が他人事とは思えない性分の私、例によって製作者が無意識に描いているであろうすっげー細かいところに気をとられながらも、いろいろ考えさせられたのでした。ネトフリのインド映画、こういうの多いよね……いいぞ、もっとやれ。
えーと、細かいところ、っていうのは、チャイのおつまみとして出されているその甘いナッツ系の何かは何ですか。とか、カフェでチャイと一緒に注文されているドーサがどんなやつか見てみたいけど、これ絶対出てくる前に何かが起きるやつやん(起きた)。とか、男性優位と腐敗した社会の象徴として出てくるバカ息子がコカインだかなんだかをやってるシーンがある一方で飲酒が宗教的な禁忌ゆえにさほど習慣づいていないことも示唆されて、いやそれ、宗教設計上のバグですやん。とか、夜勤帰りの女性警官が自宅近所の屋台でパンと牛乳を買うシーンはあるけど支払わないのは、ああ月末ツケ払いなのね。とか……ね、われながら細かいところが気になってるよね。
あと、物語終盤に紹介されるアムリタ・プリタムの自伝『レベニュー・スタンプ』(1976)ってたぶん本邦未訳ですけど、そもそもインド映画で本が映ること自体がきわめて稀な気がするんですけど、どうですか。
「レベニュー・スタンプってなんですか」「アルコールとかタバコを売った収入を税務署に報告するときの収入印紙のことよ」「……」「アムリタ・プリタムがね、誰かに言われたんですって。君の人生なんて収入印紙の裏に書けるぐらいのものでしかない、って」
どうです、ここだけ取り出しても何のことだか分からない感。でも、ここ、とても良いシーンなんです。海外文学クラスタには自信もっておすすめできるなー。
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