MasaichiYaguchi

ヨーゼフ・ボイスは挑発するのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
第2次世界大戦後のドイツで「社会を彫刻する」ことを掲げて活動した芸術家ヨーゼフ・ボイスの人生を追ったドキュメンタリーは、膨大な資料映像や新たに撮影された関係者へのインタビュー映像から、ボイスの芸術に迫っていくだけでなく、第2次世界大戦で戦闘機が墜落して死に直面する経験のあるボイスが、その時に受けた大きな傷が、彼自身の作品の核になっているという、知られざる側面も明らかにしていく。
初期フルクサスにも参加し、脂やフェルトを使った彫刻やパフォーマンス、観客との対話を作品とするボイスは、アートは美術館を飛び出して誰もが社会の形成のプロセスに加わるべきだと訴える。
既存の芸術が持つ概念を拡張するその思想は、世界中に大きな議論とセンセーションを巻き起こし、バンクシーを始めとする現在のアーティストにも影響を与えている。
映画には他に、死んだ野うさぎをつかったパフォーマンス等をはじめとした代表作の数々と、「未来に向けて運動してゆくべきだ」「挑発すればそこで人は活気づく」というボイスによる言葉が収められている。
更に本作は、今まで知らなかったボイスの繊細さ、傷付き易さと真剣さ、夢想家と理性の人という両面を映し出していく。
そして資本主義が様々にその限界を露呈している今、その先を見据えた経済・芸術を唱えたボイスの思考を知る機会を与えるドキュメンタリーと言えるかもしれない。