タイレンジャー

ボーダー 二つの世界のタイレンジャーのレビュー・感想・評価

ボーダー 二つの世界(2018年製作の映画)
4.0
北欧のX-MENか、これは。

まず人間社会の中の少数の「異形者」を描いているという点が、本作と『X-MEN』の基本的な共通点です。「異形者」というのはもちろん本作でのトロル、『X-MEN』におけるミュータントのこと。

もちろん人間社会の中にも多様な価値観がありますが、「異形者」の価値観はその中には属しておらず、容姿や能力が人間たちと異なることからも社会的な疎外感に苦しんできた人々です。

また「異形者」たちは時に人間たちから差別・迫害を受けることもあり、結果的に両者が対立するという「多数派 VS. 少数派」の構図も両作品の根底にあると考えます。

そもそも『X-MEN』の原作コミックは、現実世界の社会的マイノリティをミュータントに置き換えて描いた話だとも言われているそうで。

主人公ティーナが本当の自分を知り、あらたな居場所を見つけても幸せは長く続きません。「そっち側」の中にもまた対立する価値観が存在するからです。

『X-MEN』で言うところの、人間への復讐のためテロリストとなったマグニートーと、人間とミュータントの共存をめざすプロフェッサーXです。復讐か、共存か。この対立の構造が『X-MEN』シリーズにおける大きな軸になっています。そして本作にも似た構図が見られます。

もうひとつ本作で興味深いのが、人間にあらざるトロルはある意味、性的不一致な存在だということです。ヴォーレは見た目は完全にむさ苦しい男ですが、女性器を有しているという設定になっています。

ここで思い出されるのは『ぼくのエリ 200歳の少女』にもそんなトランスジェンダー的な設定があったことです。この原作者は本当にこういう要素が好きですね。この人自身がLGBTなのかな?と短絡的ながらも思います。

で、また『X-MEN』の話を被せますが、2000年以降の映画版において「ミュータント=同性愛者」の暗喩のニュアンスを持たせたのは自身も同性愛者であるブライアン・シンガー監督です。彼らが多数派の社会の中で感じている疎外感は同性愛者も人種的マイノリティもミュータントも同質のものだ、というわけですね。

このように(意外にも)何から何まで『X-MEN』と符合する本作ですので、「アメコミをあくまで北欧っぽく仕上げてみました」映画という視点で観てみるのも一興ではないでしょうか。