えるどら

ボーダー 二つの世界のえるどらのレビュー・感想・評価

ボーダー 二つの世界(2018年製作の映画)
3.5
あまりに強烈。すごいし面白いんだけど、なんて言葉にしたらいいかがわからない。

税関職員のティーナは感情を嗅ぎ分ける能力を持っていた。そんなティーナの前に現れたのはどうにも不気味な虫食いの男。どこか似た雰囲気を持つお互いは惹かれ合う。男の正体と、ティーナの能力、そして2人の共通点について徐々に明らかになっていく。

巧妙な伏線と、予想を裏切る展開に痺れた。
こう見えて実はかなりファンタジーな映画。
自分の価値観を常に作品に合わせてアップデートしながら見る感覚。

​───────ここからネタバレ​───────
前情報無しだったのでずっとたまげてた。
最初は、映画の雰囲気がリアル寄りだったのでSF的なオチかと思ってた。
「動物とのハーフ」とか「虫の遺伝子を組み込まれたクローン人間」とか。
そしたらやべぇ男がやってきて、身体は女性ですって言われたので「性同一性障害」を疑い、いわゆるマイノリティを題材にした社会派か?と思った。
だけど主人公のティーナは顔が特徴的ではあるが虐げられている描写はほとんどない。むしろ社会から必要とされ、慕ってくれる異性もいる。
社会的弱者の反逆ストーリーではない。
ティーナと男の共通点は?どんな人?何を伝えたい?どんな結末を用意する?
映画の核が理解できないところに引き込まれていった。

謎の男・ヴォーレはとにかく謎で、「人は理解できない存在に恐怖を覚える」ということを体感した。最初は「性同一性障害」かと思ったが、途中からはもうそんなこと言ってられるレベルじゃなかった。意味不明な素行や、偏食、動物への威嚇なんかは精神疾患では片付けられない能力だからだ。
その正体・トロールと明かされ、突然のファンタジー要素に驚いた。
てっきり「『JOKER』みたいな映画なのかも」と思ってたので、「どっちかって言うと『ハリーポッター』ですよ」って言われても全然ピンと来なかった。
だけど思い返せば、“人間の飯が食えない”という点で明確に人でないことが示されていたと気づく。

物語の転換点は「児童ポルノ所持の男が突然殺されるシーン」だろう。いきなり死んだのでめちゃくちゃたまげた。
ティーナの仕事(人間の世界)とヴォーレ(トロールの世界)が交わった瞬間だ。
ここでティーナは人として生きるか、トロールとして生きるかの選択を迫られる。
友人の赤子が入れ替わってしまったのを見て、彼女は人を助けることを選んだ。
人への憎悪を持たぬ彼女は、ヴォーレのように残酷にはなれなかった。

ではあの結末は何だったのか。
私は「結局、自分の素性を知ったことで人として生きることはできなくなった。だけどヴォーレのおかげでトロールとしての生き方を見つけられた。」のではないかと思う。つまりハッピーエンドだ。
自分の素性を知り、なぜ偽りの父に育てられたのかを知り、本当の仲間の眠る場所へ赴き、人間の中で生きることはできなかった。
というかできるわけがないと思う。
唯一の理解者ヴォーレは人に売ったし、行方不明。
ティーナは森の中でひっそりと生き続けることしかできなかった。
そこに届いた巨大な箱にはトロールの赤子(入れ替え用の未受精児ではない)とフィンランドの招待状。あの家の場所を知っていて、ちゃんとした子どもということはきっとティーナとヴォーレの子どもだろう。ヴォーレはあの後フィンランドにたどり着いた。そこで子を産みティーナを呼んだ。
きっとティーナは子どもを連れてフィンランドへ行くのだろう。人を憎むヴォーレと暮らすかはわからない。だけどティーナはティーナらしく生きられるに違いない。

どんどん明らかになる驚愕の真実(っていうと一気に陳腐になるけどほんとに驚き続けてた)を飲み込み続けるのが大変で楽しかった。
ティーナの見た目も特徴的なのでとにかく映像が強烈で、「Oh...」ってなるシーンばかりだった。(映画として印象的なシーンという意味)
見るのにカロリーがいる感じの映画なのでなかなか見返しにくいけれど、間違いなく名作。なので普段映画見ないって人には薦めにくいかも…。
私はこういう脚本大好きなので凄く楽しめた!!!
えるどら

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