いののん

よこがおのいののんのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
4.3
【ほとり:海や川・池などの水際】

【淵:底が深く水がよどんでいる所】
      あるいは、
【淵:容易に抜け出られない苦しい境遇】


「淵に立つ」と繋がっていて、筒井真理子さんがいきなり赤いコートで登場すると、観ている私の心拍数があがる。車についた赤いペンキ、そしてなんと今回も、すべり台が!しかも、赤! あぁ、何か起きたらどうしよう!と、またまた心臓が苦しくなる。仕事帰りに観たけど、どうしよう、まったくウトウトできないじゃないかっ。
白と黒とに分けられない世界に、際限の無いグレーじゃなくて、赤をぶっ込んでくる深田晃司は、ものすごく攻めている人なんだろうと思う。唐突に入る、車のクラクションの不協和音(しかも長い)。唐突に入る、犬の吠える声(しかもアレです)。ブラウンに染めた髪の毛は、緑にもなる。


あとになってから、これは大事な発言だったと気づくような会話は、動物園で語られる。自らも犬になって四つ足で歩く。私たちも動物だ。もともと舞台役者の経験が長い筒井真理子さんの、身体能力の高さに、あらためて感じ入る。私たちが普段使わないで、眠らせたままでいて、まったく使い途がわかっていない身体を(心もそう)、こんな風にも使うことができるのだと、提示されたような気がする。


ごめんねって謝りたいのは、自分の為なんだと思った。タツオがそれを口にする時。(そして、私はタツオがそれを口にすることを、許せないと怒ってる。)


完全な悪人など何処にもいなくて、いじわるになったり、ごめんなさいを言ったり。善意と悪意と後悔と、そして言い訳とを、行ったり来たり。私にも、自分では自覚していない嫌~な部分も、まだまだありそうだ。普段見ないようにしているのに。地中深くに、こっそり埋めてあったのに。埋めたことを忘れていたのに。ここにあるかもと当りをつけられ、地中深くを掘り返され、見事に、発掘現場から発見されてしまった気分。それは、恥辱にまみれたものであったハズなのに、なぜか、ある意味爽快。


よこがお。それは、見つめる人がいて、見つめる人にとっての、よこがおなんだろうな。あるいは、見つめられたら、それは、「よこがお」になる。市川実和子がいてこその、筒井真理子の、よこがお、だった。傑作。こんな風に、オトナの女性2人を撮ってくれるなんて。今、私の頭のなかで、2人が赤いシーソーに乗って上がったり下がったりして揺れている(妄想)。私は、妄想のなかで、2人のよこがおを、見つめている。
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