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ドミノ 復讐の咆哮のLudovicoMedのレビュー・感想・評価

ドミノ 復讐の咆哮(2019年製作の映画)
4.1
ピタゴラ装置的なロジカル追走劇。

8年の沈黙を破り、トニースコットじゃない方のドミノ、デパルマ監督新作のサスペンスアクションが、日本でもアカデミー賞シーズンに小規模で寂しく公開されました。

これが、個人的にびっくりするぐらいの大傑作、特大ホームランで、あまりの面白さに鑑賞日のランチはドミノピザにしたくらい本作の虜になりました。

さて、今回はまるでボーンシリーズ系復讐劇を彷彿させそうな、タイトルとポスターから「今回は雇われ仕事か?」と不安をよぎるが、デパルマは追走劇の『追う者、追われる者』構図を巧みに操作し、超絶サスペンスの三つ巴を魅せます。
これは、ヒッチコックフォロアーであるデパルマが、更に昇華させた十八番の手法であるが、主人公の刑事がパトロール中に相棒を重症に負わされる冒頭。 そこから犯人を捜査し、追走するのだが、本作の面白い所は追われる身である、犯人タルジの物語へと発展するのです。

逃走中の身となるタルジは、ある悪徳組織に利用され、イスラム過激派の幹部を追わされ、国際テロへと巻き込まれる。

当の主人公なる刑事クリスチャンは、タルジの追跡に難航し、空港の手続き一つでさえスムーズにいかない。 この空港での一悶着の原因が、前半の悲劇の伏線を反復させる。そしてクリスチャンの視点はまるで観客同然に、蚊帳の外から『見届ける』ことしかできないのです。

そして映像も、カメラワークの超絶テクニシャンぷりを発揮するのですが、その『視線』こそにロジカルな映像トリックを仕掛ける。一種の主観視点とも言えるが、登場人物が観る『見えているのに届かない焦ったさ』を強度のあるズームでじっくり引き伸ばしていく。そう、これこそ映画を観る観客の視線なのです。 
登場人物らが、見つめる或いは、覗き込む『視線と距離』を錯視的に操ることで、とてつもない叙情トリックを生み出す。時にはそれが、監視カメラや動画通信、ドローン操縦画面に双眼鏡と、様々なメディア(媒体)に化ける。もちろんお楽しみのスプリットスクリーンも健在だ。

と、なんかデパルマタッチの総括みたいになりましたが、確かに"いつものデパルマ映画"に違いないのかもしれないが、特に今作の『視点と距離』を介した緊迫感が発狂クラスであったので。
三つ巴の先に待つ大団円では、スネークアイズの冒頭的シチュエーションを今回はセリフなしの長丁場で、緊迫感は絶頂モードだ。 覗き込む者とテロを実行する者、部外者、現地を捜査する者、それぞれの視点が届くことなき標的と共に交差するのです。
ものの数秒単位な惨事をデパルマは、それぞれの視点をスローモーションで永遠のように感じる『時間の引き延ばし』でじっくりと描く。
この地点で、もう抵抗不可能なまでの視覚効果にひれ伏しました。


そして、ヒッチコックサンプリングBGMなはずが、いつの間にかデパルマの作風と化し、最近ではアンダーザシルバーレイクなんかも真似た、あの大仰で古くさい音楽使いもデパルマタッチとセットなら、不思議と醍醐味に感じます。

しかし、本作の時代設定は2020年6月と提示され、テロリズムの背景は『現在進行形』の脅威として物語るのです。

まったく咆哮じゃない復讐劇としての「復讐とは、じっくりと冷やすほど美味しくなる」な落とし前に、カタルシスとも言えない、アンビバレントな心情で悶絶寸前。更にフューリーさながら、"大爆発"で幕切れるキレ味〜ブライアンデパルマのクレジットで、あまりの面白さに目頭が熱くなるほど、心を鷲掴みにされた。

世間では、いや世界中で大酷評のマトとなった不遇な作品だが、個人的には激推ししたい作品となりました。
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