大道幸之丞

沈没家族 劇場版の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

沈没家族 劇場版(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

映画として必要な情報が欠けている不親切さもあり、出来れば映画のパンフレットを読まないと、様々に誤解してしまう部分があります。

まず穂子さんは自らシングルマザーを選んでいる事実があります。

コレは実父である「ヤス君」が語るとおり、関係を修復すべく努力したのは山村氏であって、穂子さん自身が子育て環境として夫婦で育てる以外の手段を選んでいます。

土が生まれる前から関連書籍を読んだり、共同保育に関する様々な事例・実例を徹底的に模索した上で「子供は多くの大人の中で育てられるべき」と結論付けし「沈没家族」を選択しています。

ですから決してシングルマザーで追い詰められて「やむなく」ではありませんし当然「おもいつき」の次元でもありません。

「自分の時間も欲しい」との気持ちがあるものの、あくまで「子供にとってよりよい保育環境」を追及した結果と言えます。

背景として、ご覧になってわかるとおりこの夫婦は筋金入りの「ロッカー」で「インテリ」です。息子の名の「土」からもそのメッセージが伝わりましょう。

社会と政治にも一家言持っており、そもそも一般人がイメージする「家族」に対して「これが本当に正しいのか」というアンチテーゼを人生自体にも持っていました。

実は土が生まれた当時の鎌倉で最初に「沈没家族」を募集しはじめますが、全然違う方向になりそうだった為に解散し東中野で募集しはじめました。

今の感覚なら「危ない人が参加したらどうするのだ?」との疑問もありますがこの頃はインターネットがまだ一般的に普及する前で、ビラを貼り、配り、電話で受付する「直接コミュニケーション」で人が集まるため「共同子育て募集」で来る人たちは最初からリアルな繋がりになるため、そんな要素は自然に排除されていたのだと思います。

印象的だったのはまず「イノウエ」さんで、成人した土に対するコメントは戸惑いながらでもあるものの「父親のそれ」を感じます。

10年以上経過しても案外独身が多い「沈没家族」ですが「たまごさんに」問いかける女性は何気に彼へ求婚の意志を感じなくもありません。

今も世界で遊牧民は自他問わず皆で子供を育てていますので、穂子さんは「本来のあるべき姿」を取ったのかもしれません。

東中野から北新宿を経て突如穂子さんは「沈没ハウス」を逃れ八丈島へ居を移しますが、私にはまもなく思春期に差し掛かる土には重要なタイミングではなかったのかと思います。

──とまあ、この映画は観終わったあとに人と語りたくなる作品です。中学校で教育・討論用に鑑賞してもいいかもしれません。