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ふたりの女のtakのレビュー・感想・評価

ふたりの女(1960年製作の映画)
4.0
戦時下のイタリア。空襲が激しくなるローマを離れた母娘と厳しい状況の中で生きる人々の姿を描いた秀作。ヴィットリオ・デ・シーカ監督は、男と女の軽妙な娯楽作がある一方で、こうしたイタリアン・ネオリアリズモと呼ばれる現実主義的な作品もある。本作はネオリアリズモ路線ではあるが、後の名作「ひまわり」にも通ずる、戦争と男と女の物語でもある。

ローマを離れるチェジラは夫の友人ジョバンニの元を訪れる。戻るまで家を頼むだけのつもりが、暗闇で押し倒されてしまう。そこから娘と疎開するストーリーが進み始めるので、暗闇で抱擁するこの場面が長く感じられた。しかしここでワイルドなラフ・バローネを強調しているから、疎開先で出会う年下の男性ミケーレ(ジャン・ポール・ベルモンド)との対比が生きてくる。チェジラに愛情を示すミケーレに「このご時世では役に立たない男」と切り捨てるのだ。一方で娘もミケーレに好意を抱く。「平和だったらあんたにお似合いなのにね」

疎開先で出会う様々な立場の人々。ドイツ将校に媚びる富裕層の老人、生きるために食料をやり取りする人、脱走兵、ロシア兵、そして敗戦間近のドイツ兵。わずかな登場場面でも印象に残るキャラクターもいる。このあたりは現実主義的な作風が生きている。

母娘は再びローマに向けて歩き始めるが、北アフリカから来た兵士たちに襲われてしまう。心を閉ざした娘の定まらない視線と変わってしまった言動、必死になって守ろうとするチェジラには涙を誘われる。戦時下という状況、気持ちをむき出しにする男性と立場の弱い女性。ジョヴァンニやミケーレだけでなく、男の欲望までもがチェジラの身に迫ってくる。ミケーレがチェジラにくれる優しさが、あの時代に本当は大切なものだったのでは…と気付かされるラスト。とても切ない。
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