Stroszek

貞子のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

貞子(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作は鈴木光司の『タイド』。本作の貞子が登場するときには水滴がポツポツ天井から落ちるという演出があり、原作のタイトルから考えても貞子の能力が水と関係があることは明らかなのだが、本作はそのあたりの象徴体系の扱い方があまりうまくいっていないように思える。象徴の扱いが巧みなオリジナル版『リング』の脚本家、高橋洋が参加しなかったのがつくづく惜しまれる(原作にはないクトゥルフの要素を取り入れ、海の恐怖を表現していた)。

池田イライザの大きな目のアップの多用がダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァのジャッロ映画っぽい。そして、貞子出現時の音楽は、伝統的な幽霊映画のヒュードロドロ感がある。「よっ、待ってました」と掛け声がかかりそうな歌舞伎ぶり、というか。

元祖『リング』で友人死亡時の煽りを受けて気が狂ってしまった倉橋さん(佐藤仁美)が再登板。21年の時を経て貞子に呪い殺される。
 
ともさかりえ演じる霊能者祖父江とその名前のない娘(名演)の下りをもっと掘り下げて欲しかった。臨床心理士とYouTuberになったその弟まわりの話よりも面白かったと思う。

貞子を含め、基本的に親に棄てられた子どもたちの話なので、弱者が弱者をいたぶっている感じが否めない。そして母親の責任が明示されるなか、透明化される父親の存在。原作者の鈴木光司が呪いの名前を有名な原爆被害者と同じにしたときから思っていたが、基本的にミソジニー溢れるシリーズである。

間引きされた子どもたちの眠る水溜りに祖父江の娘が引きずりこまれそうになったとき、臨床心理士が「私があなたを守るから!」と言い、娘は助かる。その後、満月のパワーにより貞子が出現し、臨床心理士を連れて行こうとしたときに、YouTuberの弟が姉を助ける。

これで話が終わって、祖父江の娘と臨床心理士とが疑似親子関係を紡ぐのかと思ったら、オリジナル版を踏襲して嫌な感じのラストが待っている。

身内の犠牲によりせっかく命が助かった臨床心理士だが、ラストシークエンスでは、病室で耳を塞ぎぶるぶる震えている。結局水滴音とともに現れた貞子に仕留められる。ここらへん、「私があなたを守る」=「引き取って養育していく」という意味ではなかったのだろうかと、腹落ちしない感じが残る。

あと、同行したウェブプランナーの石田はどうなったんだろうか。ここら辺の顛末を知るには、原作を読むことが必要か。

結局、祖父江の娘は序盤で貞子に、終盤で臨床心理士に命を救われるという破格の待遇なのだが、祖父江が彼女をどうやって身籠ったのか、父親は誰なのか、といったディティールが掘り下げられていないため、なぜ彼女だけ生き残ったのかよく分からない。毒親に殺されそうになった女の子が母親的役割の女性(この場合は臨床心理士)に命を救われる。母親は自己犠牲的に死ぬ、子どもは助かるという点が、たいへん日本のホラー映画っぽい(『仄暗い水の底から』も、原作にはない母親の自己犠牲が翻案として付け加えられている)。

今回、倉橋さんのその後が描かれたように、このサイキック少女を題材におそらく10年後くらいにスピンオフ作品が作られるのだろう。もはやドル箱の永久機関である。

ホラー映画だが、全体的に画面が明るく怖くない。大島の洞窟のシーンさえもバキバキに照明が当たり、物がはっきり見える見える。

肝心の貞子の造型なのだが、オリジナルの高橋洋が考案した「幽霊+狂人」の凶悪な感じはない。何十年も井戸の中で死なずに過ごしてきた化け物が、あんなにキューティクルの効いた黒髪と綺麗な白い服のはずがないだろう。貞子は小柄な女性ではなく痩せた男性か、大柄な女性に演じさせるべきだと思う。前髪で顔を隠しただけの女性だと、残念ながらまったく怖くない。同じような幽霊のルックで怖がらせ続けるのは、もうさすがに無理がある。

今回、唯一「おお、これは気合いが入っているな」と感心したのは、再生数目当てのYouTuberが侵入する放火事件現場である。黒焦げの椅子、プラスティックが溶けかかっているスチールラック、熱でひしゃげたエアコンの見た目の凶悪さに、映り込む貞子が負けてしまっているのは惜しい。現場の禍々しさは幽霊を引き立たせるものであってほしいものである。
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