幽斎

ザ・メッセージ/アイ・スティル・シー・ユーの幽斎のレビュー・感想・評価

4.2
私は子供の頃からミステリー小説好き、高じてFilmarksでは大作映画は他の方に任せ、スリラー専門を標榜。スリラーとは基本的に謎解き、フェアな伏線回収が評価基準と成る。だが、1つだけロジックに反するジャンルが有る。ロマンティック・スリラー、このジャンルは評価がバッサリ割れる。原作は鑑賞後読了済。

北米で2018年10月に私の生涯1位作品「SAW」で大儲けしたLionsgate Filmsより公開されたが、興業は惨敗で批評家からの加重スコアも芳しくない。しかし、ソフト化され配信で公開されて、その支持率は上昇傾向を辿る。観客の多くはライオンズ・ゲート故にホラーを期待したが、それは焼きそば定食を注文したのに、カルボナーラが出てくるに等しい錯誤。本作はテラー要素や謎解きがメインディッシュでは無い。横浜みなとみらい「kino festival」は原題と同じ「アイ・スティル・シー・ユー」。

原作はアメリカのY.A.小説家Daniel Watersが2012年に発表した代表作「Break My Heart 1,000 Times」年間ベスト10にも選ばれた。Filmarksにアウトラインが無いので要約すると、世界は終末論的な荒地で既に9年が経ち、数百万人が亡くなる。その代償は大変動の厳しいリマインダーであるゴーストに置き換えられた。ゴーストは至る所に居て、主人公ベロニカ・カルダーには毎日2人が訪れる。ゴーストは日増しに強くなるが、なぜ彼らが成長するのか突き止めようと決心、クラスメートのカークと共に10年近くも謎に包まれた悲劇的なパズルを解くべく協力する。Y.A.だなぁ~(笑)。

原作小説は映画用にリライトされ担当したのが「PAN~ネバーランド、夢のはじまり」Jason Fuchs。ライオンズ・ゲートが監督に指名したのが「ミッドナイト・サン~タイヨウのうた」Scott Speer監督。因みにこの作品は日本のシンガーソングライターYUIが映画初主演した邦画「タイヨウのうた」ハリウッド・リメイク。シュワちゃんの息子Patrick Schwarzeneggerも出演。この主演女優が本作でも主役を演じる。

Bella Thorne、23歳。彼女のインスタは2500万人がフォローするインフルエンサー。女優、歌手、モデル、ダンサー。本業が何か分らなく成る程、アメリカのメディアに切れ目なく登場する、お騒がせセレブリティ。彼女と言えばpansexuality、全性愛を公言して話題を呼んだが、私も初めはバイセクシャルと勘違いした。始めて見たのは、悪魔の棲む家シリーズ18作目「アミティヴィル:ジ・アウェイクニング」駄作なので後追いには及ばないが、本作では日頃のイメージとは真逆、原作を意識したヴィジュアルで演じる(黒髪はウイッグ)。素顔を知りたい方は此方、起業家なの?(笑)。
https://www.instagram.com/bellathorne/

映画は原作を忠実にトレースして、「残存者」レムナントのプロットや、世界観が上手く映像化されてる。秀逸なのは残存者の定義が明確である事。感覚を持たない、意識的思考はない、過去の投影、ホログラムである、同じ時間に同じ姿でしか現れない、現実世界に影響を与えない。幽霊が人間が死に際に残した念、と言う宗教観を持つ日本人もシンパシーを感じる設定。ラジカルで緩やかな世界観とマッチして、他の作品にない雰囲気を醸し出す。幽霊が当たり前に暮らす社会の異様さを普遍的に描いてる。

観客に「残存者」と世界観の説明が終わると、シノプスはスリラー寄りにシフトチェンジ。前半で散りばめた隠された伏線が、絡む事無く回収され真相に至る展開は、文字通りスリラーだが、鍵と成る「うるう日」など、Y.A.小説と小馬鹿にしてると、ストーリーテリングの良さに、思わず唸るだろう。雰囲気的にはVincenzo Natali監督を彷彿とさせる、ドライとウエットが交錯する演出で、原作よりも大人向きにシフトしたアレンジが功を奏してる。スリラーと言っても先読みは必要ない、雰囲気に浸るだけで真相に辿り着ける。

評価したいのは小説の映画化が陥り易い、プロット原理主義を排除して、純粋にエンタメにトピックした作風を貫いた事。原題「I STILL SEE YOU」が、何を指し示すのか謎が解けた時、貴方も思わず「しんみり」するだろう。と、同時に最後でしっかりスリラー要素を盛り込む事も忘れてない。アメリカのレビューを見て面白かったのは、白人系の人は概ね本作を酷評してる。一方でヒスパニックやラテン系の人は肯定派が多い。これは偏に宗教観の違いと言える。南米の方はレビュー済「ラ・ヨローナ 泣く女」の様に、ゴースト自体に肯定的。心が汚れてないピュアな方は、スリラーなのに少し泣けるかもしれない。

メンタルティックなソフィストケート・スリラー。浄化すべきは生きる私達の精神かもしれない。
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