Ginny

窮鼠はチーズの夢を見るのGinnyのレビュー・感想・評価

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
4.0
ブロークバックマウンテン、君の名前で僕を呼んで、そして 窮鼠はチーズの夢を見る…?

そう並べられるのではないかと思える程に 良作でした。

水城せとなさん原作のノンケの男性とゲイの揺れ動く心情を描いた漫画が実写すると聞いた時は、どない?!とびびりました。
原作は読んでいなかったけれど これは扱う内容がセンシティブ&キャストが有名な人過ぎるからそこまで本気でやらないのでは?と勝手に疑っていた。

漫画原作の映画をやるときはマンガアプリが無料開放してくれる(ありがたい!)ので それで初めて原作を読んでびっ…くり。
濃っ厚。

言うて映画では そこまでやらないでしょと尚も疑い続け映画を見る気はナシ。
ところがちらちら見えて来る高評価…。
えっ なになに、そうなの…しかも褒められてるの演技面、特に成田凌君の演技が良いだと…(; ・`д・´)…ゴクリ
見てみたい!

うーん、でもちょっとハードル高い(^-^; と悩みつつ 自分を決定的に行動に移すきっかけを求めてインタビューを読み漁る。

成田凌君が打ち上げ終わりに大倉忠義くんに「さよならのキス」をしただと??!!!??!!??

な、なんやてぇ!?
( `)3')▃▃▃▅▆▇▉ブォォーブォォー

この作品ただもんじゃない。
撮影が終わって 打ち上げ、の最後にキスをして これで役とのサヨナラ…。
うわぁ!うわああああああ!
そこまで役に入れ込んだってこと?そうなの?そうなの?
と混乱しつつ まだ見に行く勇気が出ない。←

最後の最後の背中を押したのは 原田マハさんの鑑賞コメントを読んででした。
あの原田さんにここまで言わしめる作品、見るしかない、と即ポチり。
あ、あと映画館で前後左右あくのが今日までかもしれなかったので その間に見ておきたいと思ったのも理由です。

金曜の夕方。ほぼほぼ女性。
コンセッションを手に持って上映始まってるのに遅れて来る2人連れの女性が3組、しかも人の前通るのに屈まない。
ジャニ◯タって映画館に何しに来てんの?までキレかかったけど、その後はみんなどこに行ったの?ってくらい存在感ない、無音。
いや、結構人入ってたんだけど… 満員に近いのでは。

気付いたら 窮鼠の世界に潜水していました。
どぷん。
この映画が終わらなければ良いと思ってしまうほどずっと長く見ていたい、主人公の恭一と今ヶ瀬の2人を見て思いました。

映画が終わったあと、誰の声も何も聞きたくない 光にも照らされたくない、と足早に映画館を出て夜の街を少し歩きました。
帰宅・夜飲みに向かう人々の喧騒に包まれて 頭の中で窮鼠のことだけを思い浮かべる。浮かべるけど 説明する言葉が出てこない。
衝撃で頭を殴られたみたいだ、心を動かされて感動した とか 振動や衝撃を与えられたというより 潜水した世界から戻ってこれない たゆたっていたい。それに近いような。
言葉が出てこない、説明できない、でも 今 映画を見た時の感情を本当に今綴らないと この想いは消えてしまうのではないかと急いで書いてます。

私がBLというものを少し知ったのはかのEVAの53でして。HPの検索エンジンではカテゴリ分けがあり、NLという言葉もその時に知った。
BL、GLという言葉に対してのNL。
古の話なので 今のご時世ではこのNLの呼び名も相応しくないかもなあなんて思っていた。

この窮鼠を BLという言葉で分類分けしているのをちらほら見たし 私も何も知らない人に説明する時にBLと言ってしまった。
でも なんだかBLとか そういう分類に分けられないものが窮鼠にはあったと思える。
性別も関係ない人と人とのぶつかり合い。
恋愛って くくりたくないくらいに ぐちゃぐちゃしていて良かった。
ぐちゃぐちゃは褒め言葉のぐちゃぐちゃ。

自分が安全地帯に居れなくて
普段の自分が保てなくて
客観的になれなくて
どうしようもなくコントロールできない不安に駆られて
心にもない言葉が口から出てしまうのに
胸にあるのはただとめどない好きの想い

そんなの ぐちゃぐちゃになるでしょう。
前評判通り成田凌の演技が素晴らしかったです。
表情が台詞よりも多く感情を伝えてくれる。
ノンケの相手に何も期待しちゃいけないとわかっていても 夢見るくらいの嬉しい言葉を思いがけず好きな相手から貰ったら。
その言葉を貰えるとも夢見ることすら許されないと思っていたから持て余してしまうくらい大きな喜びを噛み締めて笑い泣き、みたいな。
成田凌の役の今ヶ瀬の言う台詞も 感情表現がストレートで。これは水城先生がベースに作ったキャラクター設定あってこそだと思いますが 無邪気に愛情一本まっすぐの彼を成田凌くんはとても良く演じてくれた気がします。

そして大倉忠義くん。
成田凌くんにもですが、大倉くんにも、足向けて寝れない気持ち。
こんな素晴らしい作品に出てくれてありがとう。
ジャニーズという立場で 出てくれてありがとう。すっごくすっごく良かったです。体当たりの演技。
大倉くんの声とか顔が 色気の塊で、それが狙ってなくて無自覚天然の女ホイホイな感じで沼だなぁって思いました。

前評判で大倉くん演じる恭一がクズだクズだと聞いていまして どんなクズ…と思ったけどそんな思ったよりもクズではなかったです。
関わりたくないけれど、「流され侍」ならこれぐらいのもんだよなあと。

それよりも 最後の恭一の選択、決意は私もできないものだから この人すごいとただ感心してしまいました。

帰り道、窮鼠のことを考えていて、
あれはセックスじゃなかった、本当の愛の営みだったと思い当たって涙が出てきそうになりました。

大事なことを映画からたくさん教わってきた。
こと男女の営みは映画でよく見てきた。
だから日本の最近の映画やドラマを見るとこれはキスじゃないと思うものばかり。キスじゃない、愛が感じられない。
この映画は違いました。
生々しく とても良質なラブシーンでした。
こんなラブシーンを描いてくれる日本映画があるなんてって嬉しくなりました。

体当たりで演技をしてくれた2人のためにも あんな素敵なシーンを作ってくれた監督スタッフの頑張りのためにも。
この映画のラブシーンを茶化して軽視することがないといいな。
ラブシーン目当てで見にきてでも この作品を見て欲しいって成田凌くんはインタビューで言っていたのできっかけは良いと思うのですが 本編を見てからはね。きちんと受け止めてほしいな。

大倉くんが出てくれたことにより たくさんのファンの子たちがこの映画を見ることになったと思う。そういうきっかけとなったこと、良作に触れる機会を提供したこと、大倉くんの存在価値は素晴らしいと思います。

シーンひとつひとつ 布石だったり回収だったり、鏡の使い方とか構図とか 良い!良い!の連続すぎて 細かく覚えてません。
良すぎて脳天パーンかも。

気軽には見れないけど また見たいような。
時を超えて人々に見られる名作になるかなあ?なってほしいなあ。
Ginny

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