レオピン

レディ・ジョーカーのレオピンのレビュー・感想・評価

レディ・ジョーカー(2004年製作の映画)
3.2
警察がさぁ
血眼になって探してる犯人が
何食わぬ顔でデカ部屋に座ってるってのは
ゾクゾクするんですよ

日活製作。製作総指揮は足を向けては寝られないナムコ会長中村雅哉。

吉川の魅力が詰まっている。それに尽きる。
だが脚本がよくない。情報を詰め込みすぎたせいで初見の人が見たら話が見えなくてついていけないこと間違いない。そっちは詰めるな。

犯人の男たちは何がしたかったのか
昭和22年、二・一ゼネスト中止命令から始まる。戦後の繁栄に取り残された人々の怨念が背景にあることが示される。それは寒風吹きすさむ貧困の村、『天国と地獄』ふうのモノイ薬局から見上げた日の出ビール本社屋のカット、だがこれだけでは動機の説明にはなっていない。

特に、渡さんのキモチをこちらがどれだけ汲めるかがこの映画を観るポイントになっている。
義弟からの電話で、子供がバイク事故にあったというだけで孫が死んだと片付けていた。端折りすぎだってw

アンタらには分からせん
ずっとなるように来て
なるようにしかならん生き方もあることを

何となくお察しするが、少なくとも彼が犯行の主犯らしいところはまるで描かれていない。
あれほどの大企業がビールにいたずらされたぐらいで20億ポンと払うかね。社長の姪を脅されたからといって、それを回りの重役たちが許すのか。グリ森にあった連続企業恐喝という側面がないせいでこの辺り首をかしげてしまう。脅迫状を警察マスコミに立て続けに出したからこそ劇場型犯罪になったのだ。だからこそ密室で裏取引という話も出てくる。

ほめの所は現金受渡シーンの警察のリアリティはちょっとだけよかった。無線でのやりとり。
トカゲ1 は現送の後ろに入れ
トカゲ1 了解
でもなんだかその後、文字通り煙に巻かれて尻すぼみ。ニセのレポを使った現金奪取シーンも手抜きのドラマのようでスカスカだった。

最後、合田の先輩が警察を辞めて福島へ引越していくのを見送るシーンもよく分からない。半田の上司の自殺を受けて警察組織への憤まんがあったのだろうが、うまく伝わらない。 

合田雄一郎という男の魅力。白スニーカーはぜひ合皮ではなくキャンバス地がよかった。小説ではいつもベランダで汚れを落としながら気持ちを鎮めていた。もっと彼の危うさを出して欲しかった。

高村薫が採用したのはグリコ森永事件に被差別部落が関係しているという説。この辺りが事件の信ぴょう性を高めていた。社長が着せられたコート、53年テープ。どうしてもルーツは戦前、朝鮮半島か満州、引揚者にあったのではと思わせる。清張さんにも通じる面白さがあった。実際の犯人が送りつけた脅迫状にあった、
「わしらの人生くらかった くやしさばかりがおおかった わしらがわるくなったのもみんな世の中わるいんや こんなわしらに だれがした」
これがキーなのだ。

それにしても男たちはよく死ぬ。分からない外国人が見たらやっぱり日本は腹切り文化ねと。
孫も娘婿の義弟も課長代理もすぐに死ぬ。何て個が弱い。韓国映画を見ていると儒教的な描写に苛立つことが多いがこれだって同じことだ。

とにかく消化不良という言葉がピッタリな作品。 ドラマ版の方がまだましか。つめこんで端折ることをやりすぎたせいで訳がわからん。結果役者に丸投げ感。なによりも、

菅野美穂がもったいない 菅野美穂がもったいない

⇒音楽:安川午朗
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