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ビル・エヴァンス タイム・リメンバードのTAKAのレビュー・感想・評価

4.0
ビル・エバンスの生涯をずっと知りたいと思っていた。

10代の頃、オールバックの彼がタバコをくわえてピアノに向かっている写真がかっこよすぎて、ずっと部屋の壁に貼っていた。
初期のリーダーアルバム「ポートレート・イン・ジャズ」を聴いたのが初めての出会いだったが、「ワルツ・フォー・デビィ」、「ムーン・ビームス」と聞き進めて、それから全部を知りたいと買い漁って完全に虜になった。映画を見て、1958年の、2枚目のリーダーアルバムである「エブリバディ・ギグス」を聴いていないことを知り、今歯がゆい思いと共にまた買わねば、と思っている自分がいる。

大物ミュージシャンのドキュメンタリー映画らしく、これでもかと言わんばかりに存命する大物が続々と登場し、一様に素晴らしい、美しいと連発していた。
ビル・エバンスという人物は写真通りで、繊細でとても傷つきやすい人だったのだろう。そして、表向きはクールで気むづかしい印象を湛えながら、女性に対しては直情型というか、惚れっぽいのか、この映画で数々の遍歴とドラマを知った。
その中でもエレインという、勝ち気ながらも内から長年エバンスを長く支え続けた女性に対し突如として別れ話を切り出し、ネネットと知り合って結婚を決意したことでエレインを悲しませたことは、とても非人道的とも言える仕打ちではなかったか。
その直後のエレインの地下鉄への身投げという、悲し過ぎる出来事には驚いたし、また一気に薬物へ浸る材料を作ったかに思えた。

事実、ネネットとの間には、エヴァンという息子を授かり、一見素晴らしい人生をやり直そうとしているかのような別人になったエバンスがいたが、結局クスリに戻ってしまい家族との破綻を招いている。
エバンスはそもそも、すべて身近な人に曲を書くほど、優しい人だったようだ。だが創作に明け暮れ、ヘロインに浸りながら過ごしてきた人生には、わがままもつきものだったのだろう。不幸なことに身近な人が次々と死んでいき、そのたびにクスリで癒すことで自分を慰めていた人生だった。


エバンスの遺した楽曲の数々はとても素晴らしく、色褪せることのない輝きに満ちているが、その裏にある悲しみや抑揚、運、別れなどとても深い影というべきものが映画でよくわかった。
この映画はエヴァン・エバンスが制作に加わっていることもあり、秘蔵であったろうフィルムなども垣間見られ、とても感動的な作品となっている。
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