オトマイム

ビル・エヴァンス タイム・リメンバードのオトマイムのレビュー・感想・評価

3.9
ビル・エヴァンスを聴くと海の中を思いだす。海に潜るとそこには日常と離れた高揚感や生命の神秘に触れる厳粛な気持ちや安らぎがあり、危険と隣り合わせの緊張感もある。水の粒子ひとつひとつに降りかかる地上のひかりや、生きている証であるいくつもの気泡に包まれる幸せ。そんな、全身に纏わりつく感覚が似ている。

ひさしぶりに会った友達とごはんを食べてすこしお酒も飲んで、寝ちゃうかもね、なんて言いながらその日の最終回を観た。最高だった。初めのうちは、よくある形式のドキュメンタリーだな、本当に寝てしまうかもと思ったのだけれど、その壮絶なエピソードは驚きの連続で、怒涛のように駆け抜けた人生の軌跡にひきこまれていった。

名前をタイトルに入れて曲をプレゼント、それをライブで演奏する。これは必殺技だ、誰だってメロメロになってしまう。一見奔放すぎて身勝手に見える女性関係だけど、かつての恋人たちが別れた後に誰も恨みごとを言っていないのはすごいことだ。彼はその時のありったけの愛を出し惜しみせずに相手に与えたのだろう。もちろん都合のいいことしか映画に使っていないのかもしれないけど。

彼は音に対しても女性に対しても、いちばん深いところから湧き上がるプリミティブな感覚をたいせつにして自分のものにしようとしたひとなんだと思う。それに洗練されたセンスと卓越した技術とがとけあって聴くひとの奥深くに触れる。

ピアノに覆い被さるように弾く独特の演奏スタイル、大きな手。低い椅子に腰掛けて弾く大柄なグレン・グールドとすこし重なった。音響もよく中盤以降はとても心地よくなって酔いしれていた(お酒効果もあるか…)
素敵な時間を過ごせました*:.。.*