なべ

DUNE/デューン 砂の惑星のなべのレビュー・感想・評価

DUNE/デューン 砂の惑星(2020年製作の映画)
5.0
 開始早々、ティモシー・シャラメを見て、ポール・アトレイデスにしては線が細すぎなんじゃない? いいとこのボンな感じはするけど、全宇宙を巻き込む惑星間戦争の中心人物とするにはもの足りないなと思った。
 ごめんね、ティモシー。ぼくが間違ってた。あなたはカイル・マクラクラン以上に殿下だったし、スティルスーツを着た勇姿はクイサッツカデラッハを予感させるに充分なものだった。
 あらかじめ断っておくが、ぼくはDUNEファンだ。今では古めかしく感じる原作も読んだ世代だし、リンチが撮った1984年版も大好きだ。だから、本当に満点コンテンツなのか、客観的な評価ができているのか自信がない。
 でも少なくとも、155分間1秒たりとも不満を感じる箇所はなかったことはハッキリ言っておきたい。
 どっしりと本物感溢れる美術に驚嘆し、タメの効いた演出とほとばしりにうち震え、ギリギリ最小限に抑えられた用語解説や背景説明に膝を打ち(本当はなくてもいいんだけど、それではあまりに不親切なので。原作の文庫にも各巻末に用語解説が収録されていたほど)、見慣れた豪華俳優のいつもとは違う雰囲気を見ては愉悦を感じていた。
 最大漏らさずこの世界観を受け止めたいとみじろぎせずにIMAXの巨大スクリーンと対峙していたせいか、終わったらひどい頭痛に陥ってたほど。物語のディテールも、設定も、圧倒的な景観も情報量が多すぎるのだ。人ひとりが受け止めるには完全にキャパを超えてた。取りこぼした情報があるかと思うと、今からでも2回目の鑑賞に向かいたくなる。
 この新生DUNEを観るとスターウォーズの新三部作がいかにダメだったかよくわかる。
 勢力配置図、各主要人物の目論み、そこから生まれる因縁と、うまく定義された設定はそれだけで物語の流れをスムーズにする。苦難を余儀なくされる主人公に思い入れが生まれるのはそういうストーリーテリングのなせる技だ。旧約聖書やコーランを思わせるような古くさい設定でもだ。ポリコレに縛られ、こじつけやその場限りの思いつきで物語が迷走したSWのおもしろくなさにDUNEで気づかされるとは…。いや、類似点が多くて嫌でも比較しちゃうのよ。
 随所にリンチ版へのリスペクトが感じられたのも嬉しかった。「リンチパイセン、あなたがやりたかったのはこうですよね⁉︎」って気遣いめいた演出が芳しいのだ。
 もちろん全ドゥニ・ヴィルヌーブファンが待ち望んだあの文芸風味は健在。たゆたうような時間の流れ具合に格調高い抑揚を存分に楽しめる。なんせ155分だから。ファンじゃない人や静かなシーンがおもしろくないと感じるちょっと思考が苦手だったり感受性の低い人には退屈な映画かもしれないが、映画鑑賞リテラシーの高い人にはかけがえのない至福の時間となるはず。ちなみにぼくは100点満点で500点与えたから(普段はこんなバカみたいなこと言わないんですが)。
 前・後編になるのか三部作になるのかわからないけど、よくぞ分割してくれたと思う。そうです。そうなんです。完結しないんですよ。続くんです。この芳醇な世界がまだまだ終わらないんです。
 思えばフェイド・ラウザは出てきてないし、モジュールも見てない。ジハードは始まってもいない。こんなに興奮してるのにクライマックスはこれからなんて!続きはいつまで待てばいいんだろう。少なくとも続編を観るまでは健康状態を維持しなければ。待ってろよ皇帝!待ってろよベネ・ゲセリットの教母(エンドロールを見るまでシャーロット・ランプリングだとはまるで気がつかなかったぞ)!


追記
 予告編でピンクフロイドの狂気日食の合唱が流れてて、ハンス・ジマーの采配に疑問を感じていたけど、なかなかどうして。中東っぽい熱唱が気高く、また神々しくもあり、後のジハードを予感させる素晴らしい音源だった。無料で聴けるみたいだけどサントラ買うよ!

さらに追記
 ホドロフスキーなんかに撮られなくてほんと良かった。ホドロフスキーファンには悪いが、彼の作品に大いなるアマチュアリズムは感じても映画職人としてのセンスを1ミリも感じたことはないから。撮れなかった話で映画一本つくるとはいい度胸してるじゃねーか(まあ本人による作品ではないけど)!ワンカットも撮らずに数千万ドル使うなんてクズかよ!って毒づいたことをちょっぴり思い出した。
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